世の中の自動車がガソリン・ディーゼル車からEVなどの非ガソリン車へ変わってゆくのと並行して自動運転の開発が進んでいる。二酸化炭素を抑えるなど環境保護の観点から進行している動力エネルギーの転換の一方、運転の主体を人からシステム移行する別の技術開発が「自動車」という同じプラットフォーム上で行われていることになる。
この自動運転車の出現と進化もまた将来の世界経済に大きな影響を及ぼすはず。人間が運転するよりも安全な完全自動運転が実現したら、ドライバーという職業は少なくなってゆくだろう。さらに自動運転車のタクシーが普及すれば自家用車が激減するという予想もされている。
自動運転のレベル
人は必要なときに車を呼んで、目的地まで運んでもらう、自動運転車は呼んだ人を目的地で下ろして、そこで停まることなく次の客を迎えにゆく。これが普通になれば、自家用車の保有をやめようという人が増えるのは想像に難くない。一日中稼働する自動運転タクシーが24時間走り回り、稼働の少ない自家用車が少なくなれば駐車場も減り、路上駐車もなくなりいろんなものが効率よく有効活用されるようになる気もする。
自動運転はシステムの人間の運転への介入の度合いによってレベル0からレベル5までの6段階に分かれている。
簡単にまとめると、
レベル0:運転自動化なし
レベル1:運転支援:自動ブレーキ、自動で前の車との車間を取ってついて行く等の機能があるレベル
レベル2:部分運転自動化:走行する場所によって運転者がハンドルを握らなくても良いレベル
レベル3:条件付運転自動化:走行する場所によって運転者がよそ見をしていても良いレベル
レベル4:高度運転自動化:走行する場所によって運転者の要らないレベル
レベル5:完全運転自動化:すべての場所で運転者の要らないレベル
レベル3以下の運転主体は「人」、レベル4以上は運転主体が「システム」であると定義されている。現在自動運転の市場をリードしているのはアメリカだ。
アメリカの自動運転技術開発
Googleを傘下に持つアルファベット[ナスダック:GOOGL]のウェイモ(Waymo)はおそらく自動運転業界ではもっとも知名度があり、技術の進んでいる会社のひとつである。2009年にGoogle社内のセルフドライビングカープロジェクトとして発足し、2016年に分社化している。すでにレベル4の開発に成功しており、2018年からアリゾナ州フェニックスの限定された地域ではあるが無人タクシーの商用サービスに乗り出し、「Waymo One」という配車アプリでドライバーのいない車による送迎に成功している。
同じくレベル4のシステムの開発に成功しているのはアプティブ(Aptiv PLC)[ニューヨーク証券取引所:APTV]1994年にゼネラルモータース(GM)から分社化した自動車部品メーカーのデルファイ・コーポレーションが前身である。アプティブはアメリカの配車サービス大手のリフト(Lyft)[ナスダック:LYFT]と提携して2019年からラスベガスで自動運転タクシーの稼働を実現している。こちらは一応万一の危機対応のための管理者的な人が乗っているが運転はシステムがおこなっている。
GMはGMクルーズ(GM Cruise Holdings LLC)という自動運転車開発会社を有しており、こちらもリフトの配車サービスと提携している他、ソフトバンク・ヴィジョン・ファンド、ホンダ、マイクロソフトなどが出資をしている。
アルゴAI(Argo AI)は2016年に設立された自動運転技術開発会社で米フォード、独フォルクスワーゲンという米欧の大手自動車メーカーから出資を受けており、2021年中にテキサス州で自動運転タクシーと無人物品配送の商用サービス提供開始を計画している。
中国の自動運転技術開発
アメリカでGoogle系のウェイモがトップランナーであれば、中国では同じく検索エンジンの巨頭であるBaidu(百度)[ナスダック:BIDU]が自動運転開発の中心的位置にいる。2020年中に無人の自動運転走行の許可を北京市や長沙市(湖南省)、そしてアメリカ・カリフォルニア洲で取得している。独ダイムラーやスウェーデンのボルボなどと共同開発や提携をおこなう他、自動運転開発基盤をオープンソース化する「アポロ計画」で開発を加速し、世界の自動運転システムのスタンダードの獲得を狙っている。
中国では他にもPony.ai、AutoX、WeRide、Didi Chuxingなど多くの自動運転開発スタートアップ企業がしのぎを削っている。いずれも非上場だが今のうちから記憶にとどめておきたい。
日本の自動運転技術開発
日本ではトヨタ、ホンダ、日産などが生産するレベル3の自動車が公道を走り始めるところだ。レベル4を実際に走らせているアメリカ・中国に遅れを取っているのは否めないが世界がレベル5に達するまでのかかる時間に持ち前の開発力でなんとか追いついてほしいものである。