一人の女性が出産可能とされる15歳から49歳までに産む子供の数の平均を合計特殊出生率という。現在日本ではこの合計特殊出生率が1.44である。国が人口を維持するために必要な合計特殊出生率の値は2.07と言われる。そして2年後の2020年には日本の女性の半分が50歳以上になる。6年後の2024年には突出して人口の多い団塊の世代(昭和22年〜24年生まれの人たち)がすべて75歳以上の後期高齢者になる。後期高齢者の医療費はそれ以前の世代と比較して4倍程度に跳ね上がるという。

日本の資産のリバランス

少し勘の良い人なら何の話をしているかもうおわかりだろう。日本の人口減少と少子高齢化の問題である。人口減少・少子高齢化の進行により日本の社会保障費は一気に膨れ上がることにより政府ひいては国民一人一人の負担は間違いなく増大する。

この問題はもう何十年も前から認識されてきた。ところがその解決に対する有効な対策は未だ立てられていない。日本政府の累積債務は1,000兆円をはるかに超えて今なお増え続けている。「日本国の借金は90%以上が国内で調達できており対外債務の多いギリシャなどとは違うので破綻などしない。心配は要らない」と言われることも多い。

その通り。国内の経済主体のうち日本政府の台所は確かに大きなマイナスだが国民の資産である家計と企業の資産はそれを補って余りあるプラスを積み上げている。その家計と企業のプラス資産を政府に移転してマイナス分をリバランスすれば解決するのだから国として破綻することなどない、だから日本の財務状況にはまったく問題ない、他にもっと深刻な国はいくらでもある、、というのが海外からの見方だ。

資金の流れの管理と徴税強化

こう言えるのはもちろんある意味部外者であるからだ。増税にしろ、その他の手段にしろ、リバランスの際に自分の資産が吸い上げられることになる日本居住者には安心はできるはずがない。

最近いよいよその時の準備に入っている、いやすでに始まっていると見て取れる事象が増えている。数年前から個人の海外送金に対する銀行のチェックが厳しくなっており、例えば数百万円を自分名義の海外口座へ送金するにもなんだかんだ理由をつけて断られたり、いろいろとうるさく質問をされたりしてスムーズに進まないケースが増えている。

2015年からは国外財産調書制度が施行され、海外に5,000万円以上の資産を保有している日本居住者はその詳細を税務署に報告しなければならなくなっている。同じく2015年7月1日からは海外移住する際、国内に1億相当以上の株式等の有価証券を持っている人はその含み益に対して課税される出国税が導入された。

昨年大きく値を上げた暗号通貨取引による収益は株やFXなどへのキャピタルゲイン税とは違い、最高税率の高い所得税(雑所得)として課税されることが決まり、さらに課税年度が切り替わる年末近くになって暗号通貨で消費をした場合や暗号通貨から別の暗号通貨に交換した場合についてもその時点で利益を得たとみなして課税することが決まり対象者には混乱と困惑が広がっている。

最近の動きを見るにつけて正直”そこまでやるのか。。”という感覚を禁じ得ない。前者の所得税になるというのはかなり早くから話が出ていたので良いとして、後者はせめて新課税年度から導入ということでなければ納税する側も準備が難しいだろう。

難しさを増す海外銀行口座開設

以上は危機感を持った個人が資産防衛の意志を持っておこなう海外への資産移転に対する国内側での摩擦であると言える。だが一方で実はそれ資産分散を受け入れる海外側でもだんだんとスムーズにゆかなくなっている現実がある。以前は日本人が海外へ行き現地の銀行口座を開設することはそれほど困難もなくできたが最近では長期にその地に居住していることが証明できないと申請を断られる国が増えている。

海外銀行口座として我々がまず第一に勧めているHSBC香港は短期の旅行者でもまだ口座開設が可能だがそのハードルは年々上がっていることが明らかだ。いつまで受け入れてもらえるのか予断を許さない状況にあるのは意識しておいた方が良いだろう。

すなわち自国内一極集中という最低限のリスクを避けるための資産分散の機会でさえ移動元の国内の金融機関と移動先の海外の金融機関の両方で加速度をつけて制限されつつあるのだ。。

囲い込みと締め出しの時代における海外資産運用

そんな中、長期積立投資は従来のように効率的に老後資金を作る方策としてだけでなく、国内資産を海外に移動する手段として新たに注目を集めている。

それは積立金の送金がクレジットカードを通じてできるという機能に着目したものである。この方法であれば月々一定額の資金を自動的に海外へ送ることができる。もちろん送った資金はファンドで運用されるので利回りが付き長期間で効率よくまとまった資産を形成できる一方で必要なときには貯蓄のように取り崩して使うことが可能だ。

申し込み手続きは国内から郵送で完結するので海外へ出向く必要もない。クレジットカードを使うことによってマイレージやポイントを貯めることもできるメリットもある。国内で投資をしているのならともかく、ほとんど利息もつかない銀行口座に貯蓄しているだけならその資金は海外で有効に運用すべきなのは言うまでもない。

確かに毎月少額を積み立ててゆくこの手法での海外への資産移動の速度は決して速いものではない。しかし先に述べたように国際間の資金移動が難しくなっているという流れでこの方法もいつまた突然閉ざされるかわからないことを考えるとできるだけ早く着手した方が良いと言える。

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