「国外転出課税制度」
株式や投資信託等の金融資産を合計で1億円以上保有している人は国外転出をする際、その時点で金融資産を売却したと仮定し、含み益に対して見なし課税する制度である。例えば1億円で購入した株式が時価総額1億5,000万円になった時点で海外へ移住する場合、その転出の際に含み益の5,000万円に対して20%(復興特別税を含めると20.315%)約1,000万円が課税されることになる。
国外転出課税制度(出国税)が導入された背景
株式の売買をおこなっている人であればよくわかるだろうがこれはかなり理不尽である。含み益は変動するのでもし出国税を納めたあとに保有している株が暴落して利益が減ったとしたら過大な税金を支払うことになるからだ。
別名「出国税」とも呼ばれる国外転出課税制度は2015年7月1日から施行された。それ以前は利確前の含み益に課税をするというこの乱暴な制度はなかった。租税条約によれば株式の売買益、つまりキャピタルゲイン税はその株式を売却した人が居住している国に支払うことになっている。2015年6月までは日本国内で買った株が暴騰して大きな含み益を得た場合、そのまま海外に転出して外国の居住者(日本の非居住者)になるとキャピタルゲイン税はその居住国の制度に従って納税すればよかった。
日本のキャピタルゲイン税20%は各国の中でも比較的高い方である。一方、そもそもキャピタルゲイン税が存在しないという国・地域(香港、シンガポール、マレーシア等々)もたくさんある。すなわち国外転出課税制度が施行される前は日本で買って含み益を抱えた株式をシンガポールに移住したあとで売却して利確すればキャピタルゲイン税を節税することが可能だった。しかしこれは日本の政府からすれば法制度を逆手にとった租税回避、税金の取りっぱぐれと映るのだろう。
かくしてこの「出国税」が法制化されるに至った。昨年2017年は仮想通貨(暗号通貨)が大幅に上昇して、多くの仮想通貨投資家が大きな利益を得た。中には「億り人」と呼ばれる、仮想通貨投資で1億円以上の資産を築いた人も多数出現した。
仮想通貨取引の税金
それに対して政府は昨年、仮想通貨取引で得た利益に対して雑所得として総合課税すると規定した。これはかなり厳しい課税で給与所得など他の所得と仮想通貨の利益を合算した総額に対して所得税がかかり最高税率は55%である。「億り人」になった人の多くは仮想通貨の利益だけで最高税率に達するだろう。
ただし仮想通貨の取引に所得税がかかるのは以下の場合である。
・仮想通貨を日本円などの法定通貨に換金したとき(利確したとき)
・仮想通貨で別の仮想通貨を購入したとき
・仮想通貨を使って商品を購入するなど消費をしたとき
逆を言えば、仮想通貨に投資してそのまま保有している状態(=含み益をかかえている状態)では当然まだ納税の必要はない。
仮想通貨と国外転出課税制度(出国税)
さて今、利確前の仮想通貨を保有したまま海外移住したらどうなるだろうか?
1億円以上の仮想通貨を持って国外に転出する人は国外転出課税制度の対象になるのだろうか?
所得税法60条の2で規定されている国外転出課税の対象資産をざっくり分類すると以下の通りである。
1.有価証券(株式や投資信託など)
2.匿名組合契約の出資の持分
3.未決済の信用取引・発行日取引(発行日取引とは有価証券が発行される前にその有価証券の売買を行う取引であつて財務省令で定める取引をいう。)
4.未決済のデリバティブ取引(先物取引、オプション取引など)
一応、現時点では仮想通貨という資産は含まれていない。強いて言えば、仮想通貨が「1.有価証券(株式や投資信託など)」に含まれるのかどうかが検討事項になるが、現時点で仮想通貨は金融商品取引法2条1項の各号いずれにも該当しない。2018年10月の現時点で仮想通貨は国外転出課税の対象資産に含まれない、と解釈できる可能性が高い。しかし国外転出課税制度の成立経緯を鑑みれば将来的にはここも法整備されてゆくだろう。つまり仮想通貨長者にとって今はまだ2015年7月前の状態だが、それに大きな変更が加えられるタイムリミットは刻々と迫っていると考えるのが妥当だ。