2020年4月7日に緊急事態宣言が出されてから1ヶ月半が過ぎた。営業自粛が求められて経営的に苦しい状況に陥っている飲食店の報道をかなり多く目にする。店を開けることができず売上が激減したり、ゼロになる一方で家賃や人件費、融資の返済などの固定経費は通常通り支払わなければならない。
新型コロナ流行前は5店舗合計で月の売上が2,000万円、固定経費1,500万円、利益500万円の飲食店。現在は自粛の中、デリバリーをおこなうなどの努力でようやく通常の10%の200万円の売上を絞り出すものの固定経費との差し引き毎月1,300万円の資産が減少してゆく。会社にはこれまで蓄積した余剰金が3,000万円程度あるがこの状態があと3ヶ月続けばで事業継続不能になる、、こんなケースは枚挙に暇がないはずだ。
少しでも損失をカバーしようと開けていた店が自粛警察なる市民に非難されるようなことが起こっている。多くが店を閉めている中抜け駆けのしているように見えて許せないという正義感からか、ただ単にストレス発散のために八つ当たりしているのかわからないが。少なくとも前者のように善意を持った人であればもう一歩想像力を働かせて、こんなときに営業している店の背後事情にも思いを馳せてみてほしい。
そんな飲食店店主が賃貸している物件の大家さんに家賃の繰延や減免を交渉するケースもある。受け付けてもらえることもあるようだが、多くのケースでは応じてもらえないみたいだ。するとなんだかこんなときでも自分の収入だけは譲らない店舗のオーナーの印象が悪く見えてくるがそこも想像力が必要だ。
地主の家柄で本来自分が持っている土地・建物でテナントを募っているのなら別だが、世の中の大多数の不動産投資家(大家)は融資を受けて物件を購入している。銀行から融資を引いて2億円の店舗物件を買い、それを月100万円で賃貸に出す。年間の賃料収入は1,200万円、表面利回り6%の賃貸業。しかしここから毎月50万円、年間600万円は融資の返済として銀行に支払わなければならない。それ以外にも固定資産税、所得税などの税金、火災保険料、管理費、修繕・メインテナンス費用などがかかってくる。
こうした経費が20万円/月であれば、手元に残るのは30万円/月、360万円/年。決して楽ではない。更に仮にテナントがいなくなり空室になればその翌月から収入がないにも関わらず約70万円/月の出費だけが発生することになる。そして現状を考えるとテナントの店が経営難で廃業するシナリオは充分に想定できることであり、次のテナントが容易に見つからない可能性も低くない。毎月の融資返済や経費をすべて自己負担するという最悪の状況にも備えなければならない。
もし融資の返済が滞れば多くの場合銀行は担保に入れている不動産物件を競売にかけて融資を回収する。競売で売却した価格が融資金額に満たなければ、不足分は物件を失ったオーナーが支払わなければならない。今の家賃収入の免除や繰延は言うに及ばず、家賃の減額交渉にも応じることなどできないのが実情だろう。
事業者が身を切って自粛をしなければならない緊急事態宣言がいつまで続くはわからない。もうすぐ解除になるという話もあれば一旦解除になってももし感染症流行の第二波、第三波が来れば再度発令される可能性もある。今はまだ持ちこたえている先の見通しへの不安から事業者たちが次々に諦めはじめると、やがてその負の連鎖は不動産賃貸業者に及び、担保不動産がダブつけば不動産価格も下がるだろうからやがて不良債権化して銀行の経営にまでに影響が及ぶことになるかもしれない。多くの破産者と失業者が発生したあとに、、
これまでのようにそこではじめて公的資金を注入するのが良いか、今のうちに持続化給付金などをスムーズに支給して世のお金を循環させる事業体を潰さないのが良いか、答えは明らかなように思えるのだが。