昭和生まれの一人の人間としては「結構出てくるのが遅かったな、、」という感覚がある。子供のときに想像していた21世紀はすでに往年のSFアニメ「スーパージェッター」に出てくる「流星号」のような車が空中を飛び交う世界だった。
しかしイメージしていたより約四半世紀遅れてではあるものの、ようやく”空を飛ぶ車”は実現間近である。2020年日本でSkyDriveという会社が開発した「SD-03」が2020年8月にデモフライトを成功させた。だが、やはりこの分野でも日本は世界をリードしている立場とは言い難い状況だ。
エアタクシー・フライングカー種別
今の”空飛ぶ車”市場のラインナップを見ると、電動垂直離着陸型(eVTOL)の大きなドローンに人が乗る形の回転翼タイプと車に取り付けられた折りたたみ式の翼を飛行時に伸ばして軽飛行機のように飛ぶ固定翼タイプがあるようだ。自動車渋滞を避けて空中で都市内や都市間を移動するエアタクシーに向いているのは狭いスペースからでも出発のできるeVTOLの電動プロペラ機になるだろう。
電動垂直離着陸型(eVTOL)
イーハン(Ehang)[ナスダック:EH]は中国広州を拠点として2014年に創業された自律型航空機(AAV=utonomous Aerial Vehicle)の開発会社。電動のドローン型の機体を生産している。2014年に紹介された一人乗りの「Ehang 184」は2016年にはすでに最初のテストフライトを実現している、二人乗りの「Ehang 216」とともにすでに1,000回を超える有人テスト飛行をこなしておりデータを蓄積している。エアタクシーの実用化にもっとも近い会社のひとつであることは間違いない。ちなみに2019年12月に米ナスダックに上場、株価は10数ドルで推移していたが2020年12月頃から急騰。一時120ドルを超えていたが、調査会社によるイーハンの不正会計に関するレポート(内容の真偽は不明)の公開をきっかけに暴落して2021年3月現在は40ドル付近で推移している。
ドイツのヴォロコプター(Volocopter)も将来のエアタクシー用に電動のドローン型機体を開発している。こちらは最新機種の「VoloCity」をもってEASA(欧州航空安全機関)やFAA(アメリカ連邦航空局)に商業運用の許可を申請しており、数年中にはアメリカでも空中を移動するタクシーが実現しそうだ。
ドイツには他にリリウム(Lilium)というスタートアップもあり、「リリウムジェット」という36個のダクト付きファンを搭載した機体を開発し、300kmという長い航続距離を売りに2025年までエアタクシーサービスの始動を目指している。
大手ではエアバス(Airbus)[ユーロネクスト:AIR]が「Bahana」、ベル・ヘリコプター(Bell Textron Inc.)が「Bell Nexus」、他にボーイング(Boeing)[ニューヨーク証券取引所:BA]も独自のeVTOLエアタクシーの開発をおこなっている。
空陸両用車
一方で飛行場まで自走して行って、そこで折りたたんでいた翼を広げ、滑走路から飛び立つことのできる、文字通り”空飛ぶ車”はマルチローター式のドローン型より長い航続距離を飛ぶのに向いている。
スロバキアのエアロモービル社が開発した「エアロモービル(Aero Mobile)」は2017年にモナコでおこなわれた自動車の見本市でお披露目され、実際に500台の販売予約を集めた。価格は日本円で1億円以上と高価だ。
中国のテラフージア社(Terrafugia)が開発した「テラフージア・トランジション(Terrafugia Transition)」もすでに米国FAAから軽量スポーツ用航空機としての認可を取得済みだ。2023年に発表予定の「TF-X」は2基のモーターと300馬力のエンジンを備え、時速320kmと800kmの航続距離を開発目標に掲げている。しかしこれらは当然、飛行機の操縦免許と空港・飛行場の使用許可の取得が必要だ。
オランダのPAL-V社が開発した一人乗りの「Liberty」は固定翼ではなく、車体に備えたジャイロプレーンで飛行する車。本国オランダでは2020年に道路走行許可を取得しており、アメリカとヨーロッパ諸国、およびサウジアラビア、UAEなどのGCC(湾岸協力会議)加盟国向けに限られた形ではあるが日本円で約6,000万円で販売も開始されている。納車は2022年を予定しており、同年にEASAの航空認証も取得できる見込みを立てている。
個人的には陸上移動と飛行機による空中移動の間にある大きなニーズを埋めるエアタクシーは外部からのコントロールや自動運転が可能、すなわち操縦のライセンスがなくても誰でも利用ですドローン型の機体が主流になってくると考えている。子供の頃の夢に出てきたようなエアロモービルやテラフージアなどの空陸両用車は一般には普及せず、愛好家の高価な趣味として活路を見いだすことになるのではないだろうか。