2020年11月17日、日本人宇宙飛行士の野口聡一さんがメンバーに加わりアメリカのケネディ宇宙センターから打上げられた宇宙船「クルー・ドラゴン」1号機がISS(国際宇宙ステーション)にドッキングした。搭乗メンバーは6ヶ月宇宙に滞在し、宇宙空間で可能な様々な実験や作業をおこなうことになる。

「クルー・ドラゴン」は民間初の有人宇宙船であり、今回の宇宙飛行士一人あたりの打上げコストはおよそ55億円。スペースシャトル時代のコストが150億円/人だったので当時の約3分の1の費用で宇宙に行けるようになったことになる。これによりかつて政府主導で進められてきた宇宙旅行や宇宙開発は民間ビジネスのステージに移ったと考えて良いだろう。

人類の宇宙進出経緯

20世紀初頭から大気圏を出て宇宙空間に達するロケットの開発が進められた。人工衛星の打上げに成功し、人間を含む地球上の生物が宇宙空間に達するようになった1950年代後半から1960年代はアメリカとソ連が熾烈な競争を繰り広げていた。初の人工衛星(1957年)や有人宇宙飛行(1961年)に成功したのはソ連である。後塵を拝していたアメリカは1969年にはじめて他天体(月)に人類を到達させることにより雪辱を果たした。その後ソ連は人類が宇宙空間で長期滞在できる宇宙ステーションをはじめて運用し、アメリカは宇宙から飛行機のように帰還して再利用できる宇宙船(スペースシャトル)を開発した。アメリカのスペースシャトル「コロンビア」が地球帰還の途中で空中分解した2003年、中国が自力で人間を宇宙空間へ送り、帰還させることに成功している。

宇宙ビジネスの将来性

今回の「クルー・ドラゴン」はアメリカにとってスペースシャトルが2011年に退役して以来9年ぶりの自国での有人宇宙飛行でもある。この9年間の間、アメリカは自国の宇宙飛行士の輸送をロシアの宇宙船ソユーズに委託しながら、自国では民間企業の技術の成熟を待っていた形になる。

鉄道や航空然り、郵便や電話などの通信然り、コンピュータ・インターネットなどのIT然り、高いコストや機密管理のため国家プロジェクトとして進められていた事業が民間の手に渡るとき、そこには大きなビジネスチャンスが訪れ、産業を著しく成長させる。世界の宇宙ビジネスは現在50兆円足らずだが、20年後の2040年には300兆円を超える規模になると見込まれている。当然これからの投資ポートフォリオにも「宇宙」のキーワードを入れておきたいところだ。

宇宙事業はまだベンチャー的な要素が色濃く、株式を公開して我々が実際に投資をおこなえる企業は極めて少ない。

宇宙ビジネス関連企業

しかし今のうちに業界の動きや各社の特徴を捉えておくことで投資が可能になったときにいち早く動ける準備はしておきたい。

【ロケット打上げ】

スペースX(Space X)米国

取引市場:株式未公開

電気自動車メーカーのテスラやオンライン決済のPaypalを創業したイーロン・マスクが2002年に立ち上げた宇宙関連企業。宇宙船「クルー・ドラゴン」、そしてその打上げに使われた大型ロケット「ファルコン9」はスペースX社の製品、いわば今回の快挙の立役者である。かつて打上げの際に使用されたロケットは使い捨てだったが「ファルコン9」は宇宙船を切り離したあとに地上に戻って再度利用できる。今後も再利用によるローコスト化に拍車をかけて宇宙旅行を容易にしてゆく予定だ。イーロン・マスクは今世紀中に人類の火星への移住を実現すると言っている。

【衛星コンステレーション】

衛星コンステレーションは多数の人口衛星をシステムで結び協調動作をさせて高度かつ正確なサービスを実現する事業。

プラネット(Planet Lab)

取引市場:株式未公開

150機以上の観測衛星で地球を取り囲み、世界中のあらゆる地域の上空からの画像を撮影できる。画像は頻繁にアップデートすることが可能で災害による被災状況の時系列監視や、農作物の生育管理、港湾・空港・島嶼など立ち入りの難しい地区の広域モニタリング、大規模開発や工事の進捗管理におおいに役立つと見込まれている。2017年にこの分野の有力ベンチャー企業であったGoogleの子会社Terra Bellaを買収し、分解能1mクラスの衛星画像分野にも進出、撮影能力の向上を図っている。

ワンウェブ(One Web)

取引市場:株式未公開

低軌道衛星コンステレーションを用いて地球の全地域にインターネット環境の提供を計画している企業。ソフトバンクの他にもコカコーラやボーイング、米半導体大手クアルコムなどが出資。2019年までに650基の人工衛星を打ち上げてサービス開始する予定だったが、2020年に必要な資金調達に失敗して破産申請をおこなった。その後、英国政府が主導するコンソーシアムが買収している。

【宇宙旅行】

ブルー・オリジン(Blue Origin)

取引市場:株式未公開

Amazon創業者にして現在世界一の資産家であるジェフ・ベゾスによって2000年に作られた航空宇宙企業で、創業はスペースXより2年早い。民間資本を利用して安全を確保しながら安い宇宙旅行の実現を目指している。スペースXと同じように再利用可能なロケット2種類の開発を進めており、大型の「ニューグレン」は衛星の打ち上げ用、小型の「ニューシェパード」は宇宙旅行用。

ヴァージン・ギャラクティック(Virgin Galactic)

取引市場:ニューヨーク証券取引所
コード:SPCE

ヴァージン・グループの会長であるリチャード・ブランソンが2004年に設立した会社で宇宙旅行会社としては世界初の上場企業。弾道飛行により大気圏と宇宙の境界である100kmを若干超える辺りまで乗客を運び、数分間の無重力状態が経験できる宇宙旅行を一人あたり約USD250,000で企画し、すでに900人が予約をしている。2021年初めにブランソン会長が乗り込むフライトを実施し、一般向けの宇宙旅行を解禁する予定だ。

以上のような華やかな宇宙業界の表舞台にいる企業で我々が株式を取引できるのはまだヴァージン・ギャラクティックぐらいしかないが、宇宙船部品のメーカーであるハネウェル・インターナショナル(NYSE:HON)など縁の下の力持ち的存在、イリジウム(NYSE:IRDM)やオーブコム(NASDAQ: ORBC) のように衛星を利用した通信会社など裾野にある企業には投資可能。

またこれら宇宙関連の株式を組み合わせたETFである「Procure Space ETF (NASDAQ: UFO)」はすぐに取り組めるもののひとつである。

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