2017年の破産者数は68,791件で前年比6.4%増だった。日本の自己破産者数はバブル崩壊後の1990年代前半から増え始め、2003年に24.2万人でピークに達してからは減少を続けていた。しかし2015年に6.3万人という近年では最低の数字をつけたあと翌年からまた増加傾向にある。

老後破産の増加

わずか15年前は年間20万人以上が破産していたのか、、と今更ながら個人的に驚きであるが、この破産者の傾向には微妙な変化がある。バブル直後の破産はレバレッジをかけた株取引や不動産投資で高値掴みをした人が負債に耐えきれずに破産したというのも多かった。高利の多重債務なども破産の大きな原因となった。消費者金融などの貸金業者の金利の規制の整備が不十分だったということがあげられる。何しろ当時は金利40%などというのが珍しくなく、返済に窮した人が返済のために別の貸金業者で借り入れることを繰り返し最後には首が回らなくなる多重債務者を多く生み出した。

2006年に改正貸金業法が成立(2010年に施行)して個人で借金できる金額が年収の3分の1に制限され、出資法の金利も20%に引き下げられたためにこの手の破産者を激減せしめることができた。しばらく減少傾向を経てから再び増加に転じた現在破産者の中で顕著に増えているのが高齢者だという。いわゆる老後破産だ。

公的年金と老後破産

終身雇用で定年退職まで勤め上げればあとは穏やかな老後を過ごせる、、というのは完全に昔の話。その大きな理由に年金支給開始年齢の引き上げがある。従来60歳だった支給開始年齢が段階的に引き上げられてゆき、現時点では最終的に65歳になることである。

日本の公的年金には基礎年金(国民年金)と厚生年金の2つがあり、一般的に個人事業主は基礎年金のみ、サラリーマンは基礎年金と厚生年金の合計金額(2階建てと言われる)が支給される。そのうちの基礎年金についてはすでに65歳支給開始となっていて、厚生年金に関しては生まれたタイミングによって以下のように支給開始年齢が設定されている。

1953年4月2日~1955年4月1日生まれの人61歳
1955年4月2日~1957年4月1日生まれの人62歳
1957年4月2日~1959年4月1日生まれの人63歳
1959年4月2日~1961年4月1日生まれの人64歳
1961年4月2日以降に生まれた人65歳

仮に来年60歳で退職する人は64歳までの4年間、会社からの給料も年金もない状態で生活する必要がある。

2018年総務省統計局が行った家計調査のデータによれば老後の夫婦の一ヶ月の生活費は平均で256,032円。4年間で約1,230万円かかることになる。もし再就職による給与収入や奥さんのパート収入などがない場合は純粋にこれだけの金額を貯蓄や退職金から拠出しなければならない。さらに1961年4月1日以降に生まれた人は5年間で1,500万円以上を賄わなければならない。これだけで蓄えが枯渇してしまう人も少なくないだろう。

ちなみにサラリーマン時代の平均年収に対して受け取れる年金額の資産は以下の通りである。

サラリーマン時代の平均年収300万円
単身者の場合の年金128万円
夫婦の場合の年金203万円

 

サラリーマン時代の平均年収300万円
単身者の場合の年金128万円
夫婦の場合の年金203万円

 

サラリーマン時代の平均年収700万円
単身者の場合の年金198万円
夫婦の場合の年金273万円

現役時代の年収が700万円で夫婦二人暮らしの場合、月の収入は227,500円。上記の一ヶ月の生活費よりもまだ3万円ほど少ない。

住宅ローンと老後破産

住宅ローンが残っていて退職後も生活費以外の決まった支出がある場合、さらに家計は深刻な状況に陥る。

例えば3,000万円、金利2%、30年元利均等返済の住宅ローンが残っていれば月々の返済額は11万円程度。年金の半分がローン支払いに消えることになる。夫婦ともに元気であれば再就職、アルバイト、パートなどで生活費をカバーすることもできるだろう。しかしどちらかが健康を損なったりすると収入が減るばかりか医療費がかかってしまうこともある。預金が底を尽きて自宅を売却したとしてもローンの残り年数が10年あれば約1,200万円、5年であれば約630万円の残債を精算しなければならない。理想的な価格で家が売れずに残債の支払いでトントン、あるいはそれでもマイナスになることもある。

結局どうにもならなくなり破産に至る。。真面目に働いて定年まで勤め上げたにも関わらずこんなことになるのはとても気の毒だが実際こうした経緯で老後破産に至るケースが増えているという。

計画的に老後破産を防ぐ

そうならないための方法はひとつ。若い時に事前に準備をしておくしかない。

住宅ローンの残債がどのように減ってゆくのか年金支給年齢や年金支給額が今後どう変化してゆくのかというのは予めわかることである。自分の現在の収入から生活に必要な費用を引いてどのぐらい手元に残るのかを計算する。お金は手元に置いていたらなんだかんだで使ってしまうもの。

それも、

まだ今持っているのが使えるのに
新しいスマホが欲しくなったり、、

”今月ちょっと行きすぎかな。。”
と自分でも思うぐらいに飲みに行ったり、、

それほど急ぎでもないのに
やたらとタクシーを使ったり、、

後から考えれば必ずしも必要のないことに消費しているもの。

住宅ローンを抱えているのなら余剰金はできるだけ繰り上げ返済に回す方がよっぽど必要な行為だ。またローン返済がなくても雀の涙ほどの利息しかつかない普通預金に必要以上のお金を入れておくのも賢明ではない。毎月定期的に余剰金が出るならそれをファンド(投資信託)に投資する積立商品などで運用する。毎月少しずつ積み立てるのはドルコスト平均法という手法で購入価格を平均化する効果がありリスクを軽減させながら預金よりはるかに高い利回りを狙うことができる。長い時間をかけてじっくりお金を貯めるのに適切な方法だ。

子供がいればいつ入学していつ卒業するかというのも予想可能。私立に行くかもしれない、大学は文系?理系?医科歯科系?もしくは留学する可能性等々その教育資金の金額がどれぐらいかは予想の難しいところもあるが準備が必要なのは間違いない。そうした費用も積立商品でカバーが可能だし、教育資金形成に特化した学資保険のような商品を利用する方法もある。学費を出してももし余ればそれは自分たちに老後資金の足しにもなる。

「行動を起こすのはいつか?」と問われれば。ちょっと古いが「今でしょ」ということになる。


 

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