外国人によるHSBC香港の新規口座開設が極めて難しくなってきている。
海外の銀行口座である以上、その操作や手続きには世界共通語である英語、あるいは地元の言葉である中国語(広東語)によるコミュニケーションが必要であり、希望者本人が銀行担当者とこれらの言葉を使ってやり取りをしなければならない、とかもはやそのレベルではない。それは最低条件として、今銀行側が必須事項として求めているのが「なんのために口座が必要か?」という理由である。
2023年HSBC香港口座の新規開設に求められるもの
口座開設の理由や目的を訊かれるのは今に始まったことではないし、それほど複雑な話でもない。かつては「HSBC香港口座を通じて香港株の取引をしたい」とか「頻繁に香港に出張するので現地で出入金できる口座が必要」とそれらしいことを伝えれば受け付けてくれていた。現在はその目的が「香港に留学する」とか「香港で勤務する」というレベルで求められるようになったのである。
10年前の口座開設ブーム
HSBC香港の口座開設が日本人の間で人気となり、続々と香港に渡航してきていたのは約10年ぐらい前の2010年代初頭の頃だ。その頃は銀行側でも新規口座を増やすことを是としており、当時の円高の環境も手伝って海外に資金を持ってくる日本人は歓迎されるムードさえあった。パスポートと日本の運転免許証とわずかな現金だけを持って窓口に行けば、たいして質問もされずに15分ぐらいの手続きで海外口座が手に入っていた。
口座開設を数多くこなすことが銀行員の成績にも繋がっていたのか、積極的な担当者は我々のようなサポート業者に「また口座開設希望の方がいれば、ぜひ事前に私に連絡ください!」と手書きでプライベートの携帯電話の番号を書いた名刺を押し付けるように渡してきたりした。こちらもそうしたスタッフと良い関係を築けばいろいろなことがスムーズにゆくのであれこれ協力してもらっていたが、そういうデキる奴はあちこちに声をかけているので、時には他の業者のグループと予定が重なって奪い合いになることもあった。それほどに当時、HSBC香港の口座を希望する者は多かったのである。
今振り返ってみるとそれが現状の原因の一端にはなっているだろう。本来なぜ当時それほどの人がこぞってHSBC香港口座を持ったかというと、それは何より第一に日本以外の場所に資金の置き場所を作っていざというときにはいつでもそちらへお金を移せる状態にしておきたかったということに違いない。自分が住んでいる場所でいつ何時重大な危機が訪れるかは誰にもわからない、それは世界のどこに住んでいても同じである。だからせめて自分の資産の一部を別の場所にも分けて持っておくという考え方が合理的である。
変わらぬ利便性、そして今後は希少になるHSBC香港口座
二次的要素として送金や為替、投資などの操作をおこなうなど利便性の面でHSBC香港が他の銀行より優れているというのがある。多くの人はその素直な欲求に従ったというのが当時のムーヴメントの背景だろう。
当時国外における資金の置き場所を確保したい日本人顧客と預金額が殖えることを期待して受け入れた銀行側の思いは一致していたはずだった。ところがその後の経過は思わしくなかった。もちろん、現在でも海外での資産運営拠点としてHSBC香港口座を充分に活用している人もいるが、多くの口座は追加の入金がされないまま使われなかった。
日本人の利用者として英語を用いて操作するのは負担が大きかったということもあるかもしれないし、ついつい先延ばしにするうちに2年以上がすぎてしまい口座が凍結してしまったということもあるだろう。そんな放置口座が最初の思惑とは違い、却って銀行の負担になったのは想像に難くない。
時代の流れも影響した。マネーロンダリング規制が強化される中、2012年に反マネーロンダリング(資金洗浄)法の順守が不適切だったとのことでHSBCグループが巨額の罰金を課されたり、2015年にはCRS(共通報告基準)が運用開始になり、海外資産についての監視の目が強まった。こうしたマクロ的な環境変化も海外口座の新規開設に対して逆風となったのは間違いない。
一方で、HSBC香港の機能や利便性が変わったわけではない。これは20年に渡り口座を利用している私の口からはっきりと言える。新規の口座開設がこれまでになく困難になった今、すでに存在する口座は非常に貴重なものであるのは言うまでもない。すでに口座を持っている人はしっかりメインテナンスを行いながら有効活用することを願うばかりだ。