2024年4月29日、ドル円為替レートは一瞬ではあったが1ドル160円に達した。が、その後日本円は急激に上昇して、週末は152円台で推移している。政府日銀は公表していないがおそらくドル売り円買いの為替介入をおこなったようだ。
それに先立つ4月26日に日銀は追加利上げの見送りを発表していたが、それから一日で5円以上も一気に下落していた。利上げを予測していたのに据え置きだったという期待外れの結果に対しての変動というには少々大きすぎる。
2024年5月ドル売り円買い為替介入
そこには”円売りが入るだろうから円を売ろう”という投機的な売りが相当入っていたと考えられる。少なくとも政府がそう考えていたのは、ちょうど同時期になされた神田財務官の「為替の過度な変動が大きな影響を日本経済に及ぼすことは看過できない」というコメントからも推測できる。
短時間に一気に数円の変動。これはFXをやっている人ならわかるが、とても肝の冷えることである。調子に乗ってると一瞬で大損しかねないので慎重にならざるを得ない。このときは154円台まで上昇にとどまったが、翌日おそらく2回目の介入をおこない151円台まで上昇。3日間に10円近くの暴騰を演じることになった。
円安が日本国民に与える影響の本質
「この円安で海外旅行の旅費や消費が高くてしょうがない」と個人的にぼやきたい人も少なくないだろう。一方で、円安は日本経済全体には良い影響があるとも言われる。これは本当だろうか?
確かに日本国内で生産した商品を輸出する場合には1980年に世界を席巻した「安くて品質の良い日本製品」の復活を彷彿とさせるような価格競争力を持つだろうし、インバウンドの観光業が空前の盛り上がりを見せているのは日々目視で確認できるほどだ。ただ、輸出産業に関しても80年代とは違い、超円高の時代を経て多くの製造業が海外に出て、一旦は空洞化した後でもある。いくばくかの工場は国内回帰しているとはいえ、当時のような爆発力は期待できない。
そして逆に輸入品を扱う、または消費する業界は決して楽ではない。例えばスーパーなどの小売業において輸入食料品の仕入れコストが上がり利益が圧迫される。もちろん損失は避けなければならないので必要な値上げはできても、それに加えてさらに利益を乗せるのは困難だ。ガソリン価格が上昇しているのに運賃や送料に転化が難しい運輸業界然りである。「経済全体に良い効果がある」という単純な理論の背後には受益する側と決してそうでもない側の格差の拡大があるとも言える。
円安ドル高の終わりはいつか?
この円安は一体いつまで続くのだろうか。
今回の円安ドル高の起点は2022年2月の米ドルの利上げ開始であることは疑いがないだろう。0.25%という低金利でコロナ禍を脱出したアメリカはこのとき0.5%への政策金利利上げを敢行。当時の日本円の金利は-0.1%%、為替レートは約1ドル115円だった。それから11回の利上げで5.50%に到達している。世界中の人が日本円を米ドルに両替するのは当たり前で、行き着いた先が1ドル150円台というだけの話だ。
ならばこの金利差が縮まれば巻き戻すと考えるのは普通であるが、2024年3月に日銀が利上げをおこないマイナス金利をゼロ金利に戻しても為替水準はビクともしなかったどころかその後更に円安が進んだのには拍子抜けした。17年ぶりの利上げ、と騒いでみてもそれぐらいではまったく円を買い戻す気は起こらないのだ。
米ドルが利下げ局面に入れば話は代わってくるのだろうが。
2024年4月24日、米大統領選の共和党候補であるトランプ前大統領は、
「ドルが円に対しておよそ34年ぶりの高値をつけた。これはアメリカにとって大惨事だ」
「愚かな人々にとっては聞こえがいいが、アメリカ国内の製造業はドル高によって競争できなくなっており、ビジネスの多くを失ったり、外国に工場を建設したりすることになるだろう」
ビジネスマン出身の候補者らしい発言である。円安ドル高がいつ折り返し地点を迎えるのかはわからないが、来年の今頃もこの状態が続いていることはあまり思えないと感じる今日この頃である。