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「ステルス増税」

国民に気づかれにくい形でおこなわれる増税という意味である。

敵のレーダーに気づかれないように接近して、突然攻撃をしてくるステルス戦闘機。価格は変えずに商品の数を少なくしたり、上げ底の容器やビールジョッキの厚みを増すなどで内容量を減らすステルス値上げ。企業が一般消費者を装って口コミサイトなどを使って商品を宣伝したり、インフルエンサーに対価を支払って好意的な発信をしてもらうステルスマーケティング。存在を明らかにすると迎撃されたり、批判を浴びたり厄介なことになるので、どれもひっとりと上手に隠して実行しなければならない、と実行する側が思っているときに使われるのが「ステルス」という言葉なのだろう。

増税とステルス増税

ステルスではない増税には例えば消費税増税がある。一番最近では2019年10月にそれまでの8%から10%に引き上げられた。こうして税率を上げると宣言し、開始日の時が来たら商品・サービスの値段に反映される。とてもわかりやすい。

一方で以下のように税率以外のところを変更して税収増を図るのがステルス増税と言える。

・社会保険料の引き上げ
・控除や補助金などの優遇措置廃止
・医療負担割合の引き上げ

2024年までに行われた、あるいは今後行われる予定や検討中の増税、そしてステルス増税はざっと以下のようなものがある。独断と偏見でステルス度の低い(わかりやすい)ものからステルス度の高い(気づきにくい)ものまで分類してみた。年金や健康保険、介護保険などは税という名前こそついていないが国の規定によって支払わなければならないお金という点で今回は税金と同列に扱うことにした。

1. たばこ税、法人税、所得税の増税

ステルス度:低

日本の防衛力強化のための費用負担として、2026年4月から法人税を4%、たばこ税を順次引き上げる。時期は明言していないが防衛力強化の用途で所得税も1%程度の引き上げが検討されている(その場合は復興特別税が1%減額になる)

2. 復興特別所得税の徴収期間延長

ステルス度:高

東日本大震災からの復興のための財源として2013年から所得税に2.1%上乗せされている復興特別所得税は本来2025年で終了するはずだったが、それを最短でも2037年まで延長することが決定されている。

3. 高齢者の介護保険の継続引き上げ

ステルス度:中

65歳以上の高齢者が2024~26年度に支払う介護保険料が所得に応じて引き上げられ、全国平均で6,225円となった。ちなみに制度がはじまった2000年度の全国平均は2,911円。25年かけて約2倍。

4. 国民年金の納付期間の延長

ステルス度:中

本来60歳までとされてきた国民年金の納付期間が65歳まで5年間延長する案が検討されている。

5. 森林環境税

ステルス度:低

自治体が森林整備などの財源に充てるために、1人あたり年間1000円年に1度徴収される税金。2024年6月から徴収が始まっている。

6. 生前贈与の期間短縮

ステルス度:高

贈与税の控除額である年間110万円までの生前贈与は無税だが、従来贈与者が亡くなる3年以内の生前贈与は非課税とならず相続財産に算入され相続税の対象だった。2024年1月からはその期間が3年から7年に延長されている。

7. 社会保険の適用緩和

ステルス度:高

2022年からパート・アルバイトの社会保険適用の動きが始まっており、以下のすべての基準を超える場合は社会保険加入が義務付けられていた。

従業員:101人以上
労働時間:週20時間以上
月間給与:88,000円以上

2024年10月からは従業員数が110人から51人以上に引き下げられる。これにより社会保険加入対象となる会社、そしてそこで働くパート・アルバイトが劇的に増加する。

8. 後期高齢者医療保険

ステルス度:中

75歳以上の人が加入する後期高齢者医療保険制度の保険料が2024年以降順次値上がりすることが決定。上限の値上げ幅は2024年に66万円→73万円、更に2025年には73万円から80万円に引き上げられる。その上で現在10%の医療費自己負担分も引き上げられることが検討されている。

9. 結婚子育て資金

ステルス度:中

少子化対策の一環として、親や祖父母から18歳以上50歳未満の子や孫へ結婚・子育ての資金を一括で贈与すると贈与税が1,000万円(結婚に関する支払いは300万円)まで非課税としていた特例を廃止する方針を与党の税制調査会が2025年度税制改正へ議論することが決まった。非課税枠を廃止した分は各家庭の相続財産が増えるため相続税の増収につながる。優遇措置は富裕層に有利で格差を固定化を促進する懸念がある、、というのが廃止の理由らしいが。。

10. 退職金控除

ステルス度:高

会社員の退職金は勤続20年以下で40万円/年、21年目以上は70万円/年を控除できる。例えば38年勤務した場合800万円+70万円X18年=2060万円までは非課税だ。この控除額を下げて退職金からの所得税増収を目指すという増税案が2026年以降の税制改正で議論される予定である。退職金優遇が転職を妨げる一因であるというのが理由らしい。

11. 給与所得控除

ステルス度:高

現在給与所得者(会社員や公務員)の給与所得に対しては、勤務する上での必要経費として年収から約30%を差し引くことができる。要するに給料の30%は非課税ということになっているが、この控除額の減額が2026年以降に議論されてゆく予定だという。個人事業主の場合は給与所得控除の代わりに、65万円を控除できる「青色申告控除」の使用と事業にかかった経費の差し引きが認められているが、サラリーマンの所得控除はそれと比較しても大きく公平性を欠くというのが理由らしい。逆に個人事業主の控除額を増やして公平にするという考え方にはならないのだろうか。。

12. 配偶者控除廃止・見直し

ステルス度:中

配偶者控除とは俗に「103万円の壁(給与所得が103万円を超えると所得税が発生する)」や「130万円の壁(給与所得が130万円を超えると所得税に加えて社会保険料も発生する。170万円稼がないと手取りが減る)」に深く関わっている。この配偶者控除を廃止してしまおうという議論。主婦の社会進出を妨げている、あるいは夫婦共働き世帯に対して不公平だというのが廃止論の根拠だ。ちなみに国民民主党が掲げている政策は103万円の壁をもっと遠くに押しやって無税の範囲を大きくすることにより主婦・学生がもっとたくさん働けるようにする、いわば減税政策だが、配偶者控除の撤廃はパート・アルバイトの収入からもすべて所得税を徴収する増税政策である。

13. 扶養控除

ステルス度:高

従来16〜18歳の子供に対しては扶養控除として所得税分として38万円、住民税分として33万円が引かれていたが、これが2026年以降所得税分25万円、住民税分12万円に減額される。差し引きは課税所得の増加、所得税・住民税の増税となる。

14. 教育資金一括贈与の廃止

ステルス度:中

子や孫の教育資金として祖父母・父母からの1,500万円までの贈与は非課税となる制度。上記の結婚子育て資金と同様、少子化対策のための制度だが本来2023年に終了するはずだったものが2026年まで延長された経緯がある。2026年には廃止される予定だが、上記の経緯から増税とまでは言えないかもしれない。

15. 走行距離課税の新設:

ステルス度:低

走行距離税とは、車の走行距離に応じて課税される税金。電気自動車やハイブリッド車の普及でガソリン税等燃料税の税収が減ったためそれをカバーする財源として検討中。現時点は開始時期等は決まっていない。

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