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全世界が新型コロナウィルス流行に対する対応に追われている背後で中国が世界における勢力の拡大を進めている。

日本と関連の深いところでゆくと東シナ海。ウィルスのニュースの影に隠れてなかなか報道を目にすることもないが日本の領土である尖閣諸島周辺の接続水域内への中国船舶の進入は毎日のように発生しており、4月11日には中国の空母やミサイル駆逐艦が沖縄本島と宮古島の間の宮古海峡を通って太平洋に出ている。領空侵犯の恐れがある中国機に対して行われた自衛隊機の緊急発進(スクランブル)は1〜3月の間に152回もあった。2日に3回ぐらい緊急事態が発生しているということになる。

中国の領海侵犯

フィリピンやベトナムとの摩擦がある南シナ海での動きはもっと活発だ。満潮時には岩が顔を出す程度の西沙(パラセル)・南沙(スプラトリー)諸島を埋め立てて中国軍用機が発着できる空港建設を着々と継続している一方で4月18日にはこの地域に海南省三沙市西沙区と南沙区という行政区域を勝手に設定してしまった。中国のこの地域の領有は国際司法裁判所が2016年に国際法違反という判決を出しているが中国はそれを無視して工事を進めている。

中国のコロナ外交

一方でコロナウィルスの発生地で流行が早かった故に抑止にもいち早く目処をつけた中国は今感染が深刻な国への医師団の派遣や医療機器を供与する「マスク外交」によって”国際貢献”による影響力の強化を図っている。WHO(世界保健機関)をはじめ、国連でこれほど中国が幅を効かせているというのも目の当たりした。今回のコロナウィルス関連の発言においてあからさまに中国寄りの姿勢をあらわにしていたWHOのテドロス事務局長はエチオピア人だが中国が時間をかけて養成した人物と言われているし、その他にも食料農業機関(FAO)、工業開発期間(UNIDO)、国際電気通信連合(ITU)、国際民間航空機関(ICAO)、世界銀行、世界貿易機関(WTO)、国際通貨機関(IMF)、世界知的所有権機関(WIPO)、世界気象機関(WMO)で中国人幹部が影響力を行使している。

”そもそも中国が最初にウィルスの発生を隠蔽したからこんなにひどい状況になった”と腹の底で思いながらも実際今医療的な援助は喉から手が出るほど必要な国は多く、実際に中国の援助を受けている。現代日本人の良心的感覚で「世界中が伝染病の蔓延で人が死んだり、会社が破綻したりしているときにえげつないことをするなよ!」とついつい思ってしまう。

中国が立ち止まれない理由

憤るのは良い。しかしそれで中国が手を緩めることは決してない。なぜか?

以下は個人的憶測も多分に入っているのでその程度に受け取って欲しい。それは「覇権」を握ることが自分たちが生き残り、安全を確保する重要な方法と中国政府が考えているからではないかと思う。そしてそれを握ることのできる千載一遇の機会が今やっと訪れている。思えばアヘン戦争から100年以上の間、中国本土は実質的に英国、フランス、ロシア、ドイツ、日本などの列強に分割支配され、第二次世界大戦後にそうした外国は去った後も国共内戦が続き、中華人民共和国の建国以後も大躍進政策の失敗や大量の餓死者を出した自然災害、文化大革命による内乱と経済停滞を経験した。1980年のデータではGDPで日本の30%以下、一人当たりのGDPでは日本の3%程度という極めて貧しい状態におかれていた。

一方、日本は同じ時期に富国強兵に成功、清やロシアという大国との戦争にも勝利し、満州や東南アジアを支配下に置く列強のひとつとなった。いわばこの頃は日本も覇権を追いかけていたと言っても過言ではないだろう。アメリカとの戦争には破れ、一時占領されるも数年で主権を取り戻し同時に経済をV字回復させて1968年には世界第二位の経済大国になっていた。その間、平和憲法の下自衛のための武力だけを備えて、他国との紛争にも見舞われることもなく、逆に海外諸国に多くの経済協力をおこなってきた。他国の支配下に入った経験はほとんどなく、敗戦で一旦はひどい状態に陥ったものの結果的にはその時期も10年程度で過ぎた、今を生きるほとんどの日本人には戦争や生命の危険を感じるほどの貧困のトラウマはなく、融和と強調が新しい人類の未来を拓くという感覚を信じている向きも少なくないようだ。

逆に長期に渡って他国に虐げられ、新国家建設後もひどい失政続きの中国がここ30数年で豊かになりやっとトラウマを払拭できるときが来た。小国を中心に1国1票を持つ国連加盟国を経済援助で手懐け、戦略的に国際機関に人を送り込み、攻撃や制裁を受けないのであれば国際法を犯しても領土を奪い、慎重に試しながら軍事行動の幅を拡大してゆく。中国のそんな行動にはただ単に世界において大きな影響力を持ちたいという動機以外に”絶対にあの頃に戻りたくない”という恐怖が多分に作用しているのではないだろうか。そしてそれは我々日本人にはなかなかわかりにくいものだろう。

過去の恐怖に二度と見舞われないために知略、謀略、実力行使を駆使し必死になって何でもする、そんな国が隣にあることを我々は今一度認識し、強い危機感を持たなければならないと感じる。

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