2019年11月27日、米国議会で可決された香港人権法案にトランプ大統領が署名し成立した。これにより米国は香港の人権保護について観察し、必要とあれば制裁を課すことが可能になった。もちろん香港の宗主国である中国政府は反発しているが、これはほぼ半年に渡り活動を続けてきたデモ隊側の大きな成果であると言えるだろう。
香港のデモ発生から約半年
11月に入ってから香港理工大学での抵抗運動をはじめとしてデモ隊と警察の衝突は激しさを増しており、僕自身もそれまでとは違った危機感を覚え始めていた。実際幼稚園や小中学校は一週間ほど休みとなり、交通の混乱でスタッフも出勤ができなかった。(自分自身は出張で香港にいなかったが)区議会選挙での民主派の大躍進と香港人権法案の成立というのが最近の香港の動向だ。そしてデモ隊はそうした成果に気を緩めることなく、本来の目標である5つの要求が受け入れられるまで運動を続けてゆく意思表示をしている。
各国の革命・変革
日本で最後に本格的な革命があったのは1867年の明治維新。その前数年間は幕末の動乱があり、当時の体制側である江戸幕府の弾圧、尊王攘夷派の反発、衝突、暗殺などで多くの犠牲者が出た。そこで中心的な役割を担ったのは20〜30歳代の若者たち。新生日本を見ることなく散った坂本龍馬は享年31歳、高杉晋作は享年27歳。明治新政府設立時、元老となった西郷隆盛は40歳、大久保利通は38歳、木戸孝允は35歳、後に総理大臣となる伊藤博文や山県有朋は20代。
その後、富国強兵や殖産興業に成功し短期間のうちに列強の仲間入りをした日本はかなり成功した革命と言えるだろう。
中国共産党主導による中華人民共和国の成立は1949年。そのとき毛沢東をはじめとする元老たちはもう50歳を超えていたが1920年代から長い闘争を続けてきた末の建国なので運動を展開し始めたのは20代、30代の頃である。中国は建国後、大躍進政策の失敗や文化大革命の混乱など建国後30年は苦難の連続。それを超え、40年の成長を経て全体規模で世界第二位の経済大国になっている。
ニカラグアでは1979年に若年のゲリラ兵士で構成されたサンディニスタ民族解放戦線がそれまでの一族独裁政権を打倒して革命に成功した。ところが現在はその革命の英雄が腐敗した長期独裁政権の座にあり、国全体の経済状態は前政権より悪い。これは成功した革命とは言えまい。香港のケースはまだ革命とはほど遠いが現政権と対峙するという図式に変わりはない、そしてその中心にいるのは10代〜20代の若い世代。
動乱に対するリスク・リターン
なぜこうした現体制への抵抗運動では若者が中心的な役割を果たすのか?
逆になぜ年長者はそこにあまり加わらないのか?
あくまで個人的な見解だが投資に似たリスクとリターンの関係が作用しているように思えてならない。
通常安定した世の中であれば年長者の方が平均的に権力や資産を持っている、逆に若者にはそれらが乏しい。動乱が発生すれば年長者はそれらが毀損されるリスクが高く、一方若者たちはそのリスクは低い。仮に革命や変革が成功した場合、この先の寿命の長い若者はその成果を享受できる時間が長く、もしかしたら変革後に自分たちが若くして大きな力を持てる可能性もある。
一方変革後の世の中は年長者にも幸福をもたらすかもしれないがそうでないかもしれない、少なくともその後の世の中を生きる時間は短い。仮に中国のように革命が起きてからしばらく生みの苦しみが続くのであればその段階で人生を終える可能性も低くない。
すなわち動乱の末に勝ち取る変革に対する若者たちの期待リターンは大きく、年長者のリターンはそれほど大きくないのだ。若者は自分の身を危険に晒したとしても高い期待リターンはそれに見合うものなのだろう、一方で年長者にはこの手の動乱はリスクばかり高くて若者ほどのリターンが見込めないのは明らかなようである。
若者が暴力により傷つく印象が強い今の香港だがその背後にハイリスク・ローリターンの環境に苦しむ年長者が数多くいることに思いを馳せてみても良いかもしれない。明日は我が身、という可能性も心に刻みながら。