ヘッジファンドの投資戦略はまず以下の2通りに分けることができる。
1.ディレクショナル型
2.非ディレクショナル型
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ディレクショナル型ヘッジファンド
1の「ディレクショナル型」は市場全体や個別銘柄の上げ下げを予想して、上昇すると判断したらロング(買い)のポジション、下落すると判断したらショート(空売り)ポジションを取って利益を狙う戦略である。それを優れた専門知識とIT技術に手間とコストをかけて徹底的に調査して臨むといったイメージ。マーケットにおける価格の上げ下げを収益源にしているオーソドックスな投資戦略といえる。ディレクショナル型の投資戦略はさらに以下の3種類に分類される。
A.ロング・ショート戦略
B.グローバル・マクロ戦略
C.マネージド・フューチャーズ戦略
ロング・ショート戦略
割安と判断した銘柄をロングし、割高な銘柄をショートして収益を狙う最も基本的にして伝統的なヘッジファンドの戦略。要するに個人でもおこなうことができる信用取引の延長線上の投資活動と考えて良い。従来の投資信託(公募ファンド)がロングでしかアプローチができず市場全体が下落しているときは為す術無くマイナス運用にならざるを得ないという欠点を補うためにときにはショートも駆使していつでも利益を狙えるファンドを私募で組成したヘッジファンドの原型ということになる。
グローバル・マクロ戦略
世界の国や地域の経済トレンド、政治的な要因による市場の歪みなどのマクロ経済を分析して株式、債券、通貨、商品先物などの投資対象に対してレバレッジをかけてロングまたはショートの大きなポジションを取り、予想通りに価格が動いた場合に利益を得る。
ジョージ・ソロスのソロスファンドマネジメントは代表的なグローバル・マクロ戦略のヘッジファンド。政策により実質よりも高い価値で欧州通貨と連動していたポンドや無理なドルペッグが原因で過大評価されていたアジア通貨に対して猛然とショートを仕掛け通貨危機をもたらした(ファンドは大儲け)のはグローバル・マクロ戦略に基づいている。
マネージド・フューチャーズ戦略
マネージド・フューチャーズ戦略のキーワードはトレンドフォローとコンピュータを駆使した自動売買である。
株式、債券、通貨、商品先物などマーケットで取引されている流動性の高い投資対象に発生する上昇トレンドと下降トレンドをコンピュータによるテクニカル指標の分析や定量分析を使っていち早く発見し、レバレッジをかけた高速売買で機動的に利益を積み上げてゆくものである。IT技術の発達で近年最も大きく成長しているヘッジファンドの戦略でCTA(コモディティ・トレーディング・アドバイザーズ)とも呼ばれている。
最近、ダウや日経が「取引時間中で歴史的な値動き」みたいなことが相次いで起こったが、このマネージド・フューチャーズ戦略の普及が大きな原因ではないかと言われている。コンピュータの性能が向上しているのでトレンドが大きくなりやすいのである。裏を返せばそこでマネージド・フューチャーズ戦略のヘッジファンドが大きな利益をあげていると言える。
非ディレクショナル型ヘッジファンド
2の「非ディレクショナル型」はディレクショナル型以外の投資戦略である。すなわち「対象銘柄の上昇と下落を収益源にしていない」形のヘッジファンドということになる。非ディレクショナル型の投資戦略は以下の2種類に分類される。
D.レラティブ・バリュー戦略
E.イベント・ドリブン戦略
レラティブ・バリュー戦略
相対的に割高、割安になっている投資対象のペアを見つけ割高な方のショートと割安な方をロングを同時におこなう(両建て)ことにより両方の価格が適正価格に戻ったときに利益を得る形の投資戦略である。例えば株価が転換価格に達すれば株式に換えることのできる転換社債の価格に対して株式の価格が大きく下がっているときに、転換社債をロングして株式をショートするというポジションを取る。株価が回復すれば株のショートポジションは損失になるが価値の高まった転換社債の価格が上昇してそちらで利益が出る、仮に株価がさらに下がったら株のショートポジションから利益が出る一方で転換社債の方は債券としての性質から株価ほど大きく値下がりはしない。
株価と転換社債の変動率、購入する転換社債の量と株式のショートポジションの配分、債券価値と株価の乖離を綿密に計算すれば株価が上昇しても下落しても必ず利益が出るポイントがあり、そこで上記のポジションを組むのである。レラティブ・バリュー戦略はマーケット・ニュートラル戦略とも呼ばれる。
イベント・ドリブン戦略
イベント・ドリブン戦略は企業の合併や買収、新規上場、経営破綻、株価指数採用銘柄の変更などの「イベント」が起こるときに投資機会を見出して収益を得る戦略。イベント・ドリブンには経営危機に陥っている会社の債券やローンに投資したり、暴落した株を買い占めて経営参加やリストラをおこなって業績回復したときに上昇した株を売却して利益を得るディストレスト戦略、M&Aや清算、敵対的買収に絡む買収価格と株価の不一致を利用して利益を得るリスクアービトラージ(合併アービトラージ)戦略、それ以外のイベント、例えば国のインフラに関わる会社が大事故を起こして天文学的な賠償責任を負いながらも公的資金で救済されるというようなケースから生まれる投資機会に賭けるスペシャルシチュエーションズ戦略がある。