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2024年3月19日、日本銀行はマイナス金利を解除した。それまで行われていたゼロ金利からマイナス金利に移行したのは2016年2月のことだったので、8年間に及んだ、いわば異常な金利の状態が終了したことになる。さらに金利の引き上げという点では、実にリーマン・ショックを発端とする世界金融危機の前年にあたる2007年以来17年ぶりのことの出来事となった。

このマイナス金利政策は景気を刺激するための金融緩和策のひとつとして採用された。当時日本はデフレに苦しみ、「失われた◯◯年」という長期の経済低迷を脱出できずにいたためだ。

マイナス金利政策とその効果

大抵の場合、金利はプラスである。100万円を銀行に預金したら一年で2%の利息が付いて102万円になる。だから人々は当面使わないお金をなるべく銀行に預けておくのだ。これと逆の理屈で考えれば、金利がマイナスということはお金を預けておくと逆に利息を取られてしまうということだ。100万円預けておくと金利分が差し引かれ一年後には98万円とかになるということである。こんなにバカバカしいことはない。。

実際にはマイナス金利になるのは、日銀と民間銀行の間だけのことで、庶民は銀行に預金していても利息を取られるようなことはなく、雀の涙ほどだが金利はもらえる(例えば100万円に対して10円/年とか)だから金利収入が極めて微小だということを我慢すれば我々が銀行に金しても問題はない。

一方で、日銀にも預金者にも利息を払わなければならない銀行は尻に火が点くことになる。本来の銀行の主要業務である「融資」を積極的におこなって、利ざやを稼がなければ大変なことになる。果たしてそうした融資を通じて市場に大量のお金が流れることによって、景気が良くなり、デフレを脱してやがてインフレなるところまで持ってゆくというのがマイナス金利政策で目指していたところだ。

例えば現在首都圏や大阪などの不動産の値上がりが顕著だが、それは不動産投資家に低金利で融資がおこなわれたり、住宅ローンの低金利によりマイホームを購入する人が増え市場が活況を呈しているからである。

マイナス金利解除のタイミング

そんなマイナス金利の解除の時期がまだ早すぎたのではないかという議論がある。マイナス金利は確かに異常な状態だ。中央銀行の主要な機能は政策金利を操作することにより、市場へのお金の流れを調整してスムーズな景気循環を実現することである。しかし金利がマイナス状態だとさらに「金利を下げる」という操作をすることが極めて難しい
(それこそ預金者から金利を徴収しなければならないレベルとなり実質的に不可能だ)

これが欧米諸国のように政策金利が3〜5%あるのなら金利の上下調整はやりやすい。つまり主要国の中で日銀だけが中央銀行の本来の機能が著しく制限されていることになる。その機能を取り戻したいという悲願めいたものがあるのではないかと思うのは穿った見方だろうか?

また金利が上昇すると民間銀行の収益改善につながる。今回のマイナス金利解除で数百億円の利益が見込めるという。日銀の植田総裁は2024年初からマイナス金利解除を匂わせる発言を行っており、それを受けてか実際銀行株も急上昇している。日銀や民間銀行にとっては我が意得たりというところかもしれない。

だが、本当にこの時期で良かったのか?マイナス金利という異常な状態をゼロに戻すという意味で正常化と取ることもできるが、金融政策としての「利上げ」であるのは間違いない。利上げというのは景気の過熱を防ぐためにおこなうもので、景気がそれほどでもないのに金利を引き上げると不景気に逆戻りしてしまう。

日銀はマイナス金利解除の理由として長年目標としてきた2%のインフレ率が持続的安定的に実現可能になったことを挙げているが、これは景気が過熱しているというレベルだろうか?確かに物価は上がっているがそれは円安による作用も大きく、需要が牽引する良質のインフレと言うにはまだ不充分だ。大手企業は賃金も上昇傾向にあるが、全体の7割を占める中小企業にまでは波及していないという情況にもある。

ちなみにアメリカでは一昨年に利上げを開始したとき、5%を超えるインフレに見舞われていた。おそらく世界ではそのぐらいが利上げを判断する水準なのだろう。

マイナス金利解除に対する為替市場からの評価

この2年間、主要国が相次いで利上げを実施していた一方でマイナス金利を据え置かれていた日本円は大幅に下落した。金利の付かない日本円を手放して、高金利の外貨に替えるのは合理的なので当然そうなるだろう

であるならば、各国が金利を据え置いている中で日本だけが利上げをするなら多少日本円が高くなっても良いと思うのだが、マイナス金利解除のニュースとともに日本円は更に下落した。

もしかしたら性急な利上げによる日本経済の腰折れをマーケットが予見しての日本円売りなのだろうか?

そうではないことを祈るばかりだ。

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