「CIPS(国際銀行間システム)」2015年に中国が作った人民元建ての国際決済システムである。
国際間の決済や送金を司るシステムは従来SWIFT(国際銀行間通信協会)が一手に担っていた。銀行にはSWIFT Codeというものがあって国際送金業務をおこなう銀行はすべてその識別番号を持っている。ちなみにHSBC香港のSWIFT Codeは「HSBCHKHHHKH」である。
国際決済システム:SWIFT
SWIFTの本部はベルギーにあるが実際は世界の基軸通貨ドルの発行国であるアメリカが大きな影響力を持っている。送金や両替はほとんどドルが絡むのでその動向はアメリカが逐一監視できるという。
アメリカはその影響力をもって自国の意に反したり、敵対する国家に対してドルの取引を停止してSWIFTから除外することによる制裁を加えることができる。2021年現在ではイランと北朝鮮がSWIFTのシステムから切り離されている。この制裁を受けると貿易の決済などにおおいに支障をきたし、経済に申告なダメージがああるのだ。
ちなみにロシアはクリミア侵攻で、中国は国家安全法により香港の自治権を侵害したことが原因で香港金融機関のドル調達に制限が加えられることが一時検討された。そんなことになればもちろんこれらの国は窮地に立たされるが、交易の相手である世界中の企業も非常に困る。ということで現状回避はされているが、喉元につきつけられたナイフのようなドル取引停止の制裁はいつでも強力な交渉カードとなり、アメリカに逆らうことを困難にする。
国際決済システム:CIPS
そこでドルの支配を排除した決済システムとして中国が開発したのがCIPSということになる。現在SWIFTは約200の国・地域における11,000以上の銀行に利用されており、一日あたりの決済金額は日本円にして約500兆円程度だと言われている。一方でCIPSは現時点で約100の国・地域の1,000行、決済金額は2〜3兆円/日程度とSWIFTとは比べ物にならないが、一帯一路の参加国を中心にどんどん利用国を増やしている。もちろんアメリカに制裁されてSWIFTから締め出された国にとってこちらで海外との資本のやり取りをする道が拓けるのは助かることだろう。加えて新しい技術を基に開発されたCIPSは使い勝手の面ではSWIFTに勝っているとも言われる。
通貨のパラダイムシフト
それでもこの動きは旧来の銀行ネットワークを通じた資本取引の範囲での話である。中国はCIPSとは別にCBDC(中央銀行デジタル通貨)であるデジタル人民元の開発を急ピッチで進めているのが明らかになっている。改ざん不能なサイバー空間上の台帳であるブロックチェーンの技術を駆使した暗号通貨はそもそも従来の銀行ネットワークを必要としない。送金の速度も銀行経由よりずっと早くて、間違いもない。中国はこれまでの銀行を通じた取引の体制ではCIPSを作ってドルによる支配体制に風穴をあけることもやりながら、次世代の金融で先駆的な地位を着々と固めていっているとも見れる。
なるほど、今の通貨体制でドルとその発行国であるアメリカの地位を脅かすことは難しいかもしれないが、貨幣紙幣から暗号通貨へのパラダイムシフトの中ではもしかしたら逆転の可能性はあるのかもしれない。最近になってアメリカが当初は「急がない」と言っていたデジタルドルの開発に前向きな姿勢も見えてきた。今月に入って欧州中央銀行(ECB)は「デジタルユーロ」の導入により、決済や貯蓄が容易になり、ユーロの国際的な地位の向上につながるとの認識を示してもいる。
ドル・ユーロとともに現時点では世界の三大通貨に数えられている日本円だが、発行国の日本はどうするのだろうか?いずれにしても我々一般庶民も長い間紙幣や貨幣として親しんできた「お金」が形を変えるという歴史的なタイミングに遠からず立ち会うことを意識しておく必要があるだろう。