「日本人は死ぬときがもっともお金持ち」ということを聞いたことがある人は少なくないだろう。いわゆる日本人の貯蓄指向の高さを表す端的な表現である。

実際、総務省統計局の家計調査結果による世帯別平均貯蓄(負債)残高のデータを見ると以下のような状況が浮き彫りになる。

40歳未満世帯平均貯蓄額:608万円(平均負債額942万円)
40〜49歳世帯平均貯蓄額:1,024万円(平均負債額1,068万円)
50〜59歳世帯平均貯蓄額:1,751万円(平均負債額645万円)
60〜69歳世帯平均貯蓄額:2,402万円(平均負債額196万円)
70歳以上世帯平均貯蓄額:2,389万円(平均負債額83万円)

これは平均値となるが、相続税の基礎控除額である3,000万円(+600万円/人)を超える資産を残して死ぬ日本人はかなりの数に上るというのが容易に推測できる。

これに対しアメリカ人の7割は貯蓄額が10万円未満であったり、過去何度もひどいインフレやお金の無価値化を経験した中国人は少しのお金を手にしたら一刻も早くそれを不動産や金融商品や貴金属に替えようとするので貯蓄に対する関心は高くない。
日本人の貯蓄に対する意識の高さはどちらかというと世界では珍しいことであると言えるかもしれない。

ところが日本人は民族の伝統として古来よりずっと貯蓄好きであったかと言うとどうやらそうでもないらしい。「宵越しの金は持たないのは江戸っ子の粋」というのは俗な習慣かも知れないが、明治時代に郵便貯金制度を導入して国民に貯蓄を奨励したもののなかなか定着せず、金利を大幅に上げたりするなど預金集めのために結構苦労をしたという歴史もある。

その風向きが変わったのは第二次世界大戦敗戦後の1945年。「戦後ニ於ケル国民貯蓄増強方策」を制定して戦後復興のための資金を民間から集めることを目的に積極的な指導教育をはじめたこと。このころに「貯蓄は美徳」という思想を作って貯蓄を奨励したことが現在の日本人の貯蓄率の高さにつながっているという。

つまり日本人の貯蓄好きは約70年前に始まったと言っても良い。焼け野原となった祖国を復興させるために民間のお金を集めてそれを基幹産業に融通する。それが功を奏して今日の日本の繁栄があると言えるのでこのときの政策は有効であったと言える。しかし、それはどこかで是正をすべきであったかもしれない。お金は経済の血液なのでそれが投資や消費に使われれば景気は活性化する。逆を言えば貯蓄で銀行口座に滞留しているという状態はあまり良いことではないのだ。

特に株式市場など直接金融の発達した今日の日本では銀行から企業への融資はかつてほど活発ではない。銀行ではそうして滞留した巨額の預金の運用先として国債を買うことになる。政府が銀行を通じて預金者からお金を借りて、それを公共事業などの投資に回す。

自分で投資をせずに貯蓄に走る国民の資金を政府が代わりに投資しているという意味では資金の滞留を解消する一助にはなっているとも言えるが、あくまで「国の借金」としての勘定に乗っているのでやがて利払い負担に苦しむことになる。だったら国債を通じて国民から「お金を借りる」より増税を通じて国民から「お金をもらう」方が良い、と国の金庫番である財務省が考えるのは自然なことかもしれない。国民としてはたまったものではないが。。これは国としても大きな失敗であると思う。

本来なら戦後復興を遂げたあとのどこかの時点で「貯蓄は美徳」のスローガンを取り下げて、「投資は美徳」という新たな題目を掲げるべきであったのだ。貯蓄信仰の厚い日本ではいまだに投資はギャンブルであり悪であるという印象を持っている人は少なくないが実際はそうではないことは欧米人や中国人などの投資活動を見ていれば明らか。「貯蓄は美徳」という国全体の包む雰囲気が変わらないのであれば、今個人レベルで投資に対する意識を高めてゆかなければならない。

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