最近大手企業で在宅勤務制度を導入するところが増えている。ITテクノロジーの発達により要件はメールで伝え、込み入った話は電話やネット通話でおこない、図や画像、動画もオンラインで送り合い、複数の人間で意思決定が必要なシーンでは約束の時間だけ合わせてパソコンの画面を通じて会議に参加する。

ITテクノロジーの発達と働き方の多様化

各自端末を持ってサイバー空間上でデータを共有する時代、同僚が一カ所に集まって作業をする必要性は急激に薄れている。在宅勤務が可能になればこれまで不本意な離職の大きな原因であった育児や介護をしながら仕事を続けることも可能である。在宅勤務制度を導入する企業もことさらそのメリットを強調する。

誰もが育児や介護の必要にせまられる可能性があるという点でハイテクがもたらした時代の朗報であると言える。巨大な事務所や社屋も必要なくなるので大きなコストカットにもなる。

忍び寄る人工知能(AI)の影

だが数千人、数万人という従業員を抱える大企業の在宅勤務導入は一方で人工知能(AI)やロボットによる人間の仕事の代替がいよいよ始まった、という風にも私には見える。昔は手作業でおこなっていた工場内の工程の多くがロボットによって代替され、かつて工場で働いていた単純作業の労働者の需要が減少して久しいが、最近では技術の急速な進歩により近い将来多くの知的労働もAIによって取って代わられることが予測されている。

サイバー空間に保存された巨大なデータの集積であるビッグデータをAIが勝手に分析し、ある事象の特徴や傾向を解釈して意味を理解する「ディープラーニング(深層学習)」という技術が開発された要因が大きい。つまりAIが多くの人間の経験を自分のもののように消化して、適切な解決方法を考える能力を得たのである。これによりチェスやオセロはもとより、もっとも複雑で難しく人間を打ち負かすまでまだ相当かかるだろうと予想されていた囲碁の勝負でも2016年初にAIが人間のプロ棋士を倒してしまったことは記憶に新しい。

こうしてAIの能力が向上してゆけば、今人間がおこなっている仕事の多くがいずれそれによっておこなわれるようになるというのは明らかである。一般事務、営業、マーケティング、トレーディング、医師など職種によって取って代わられるタイミングや程度はいろいろだろうがそれも歴史の流れからすれば大同小異のような気がする。多くの人が今やっている仕事を失うことになるだろう。

そんな不幸な未来をもたらすなら、いっそ科学技術の開発を止めた方が良いと思う人も少なくないだろうが実現可能な進歩を自ら止めることなど人類にはできないような気がする。

こうした変化は10年、20年のうちに起こると言われているが、囲碁の例を鑑みるともっと早く到来してもおかしくない。「皆さんの仕事は明日からAIがやります」と企業が宣言するそのときまだ従業員がこぞって会社に通勤している状態だと怒号が飛び交い、もしかしたら団結して暴動が起こったりしてややこしいことになるのは想像に難くない。今のうちに在宅勤務を導入し、従業員を自宅に分散しておけば「その時」の対処も容易だ、というのは穿った見方だろうか?

いずれにしてもこうした変化が徐々に発生してくるのであれば、今引退を目の前にした人はこのまま今までのやり方で仕事をまっとうできるかもしれないが若い世代は来るべき時代に対応してゆかなければならない。

生きる欲望に基づいた事業創出の精神

「では、どう対応して行けば良いのか?」という問いに答えるのは簡単ではない。今は高度に専門的であり、当然に人間しかできないと思える仕事がこの先も本当にずっと人間にしかできない保証はない。精密な道具備えた何本もの手を持ち、すべての症例や人体の反応をインプットしたAI付き手術ロボットに外科医は取って代わられるかもしれないし、六法全書や過去のすべての判例を記憶したAI法曹の前に人間の弁護士が太刀打ちするのは困難かもしれない。

ひとつはっきり言えるのは時代が変わってもそれに合わせて自分のやり方を変え、その時々に有効な「稼ぎ」をクリエイトしてゆくことではないかと思う。ひらたく言えば、臨機応変にビジネスを展開できる能力を身につけることだ。

これまでもそうだったように、これからもいろいろと新しいビジネスは生まれてくるだろう。それをいち早く掴んで、環境を整え、人を雇い、ときには自分がAIを使いこなし「稼ぎ」を作り出す側に回る。もしそのビジネスが利益を生まなくなり廃れても別のビジネスを持ってきて常にそのときのカネを稼ぐのである。人工知能による人間の仕事への本格的な進出の時代を目の前にして、今のうちにその力をつけておくことが何よりの安全策に思えるのである。

生きる欲望のためになんとかして方法を考える、という部分でAIは永遠に人間にかなわない気がする。学校教育はいまだに旧社会での働き方をする人間をつくる形になっている。今、我々は自分の意思をそれを疑って、子供への教育方法を変えなければならない。

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