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電気自動車(EV)メーカーのテスラ(Tesla)がそれまで世界の自動車業界の覇者だったトヨタ(時価総額:約26兆円)を株式時価総額で抜いたのは昨年2020年の夏頃のこと。その時価総額は2021年2月18日時点で約7,700億ドル(約80兆円)に達している。現在テスラは世界の株式時価総額ランキングで第8位、トヨタは44位である。(余談だがテスラより上位は1.アップル、2.サウジアラムコ、3.マイクロソフト、4.アマゾン、5.アルファベット:Google、6.テンセント、7.フェイスブック)

一方でテスラの2020年の年間生産台数は約50万台(年間総売上高は約315億ドル=3.3兆円)、トヨタの2020年の年間生産台数は約950万台(年間売上高は約30兆円)である。販売台数で19分の1、売上では約9分の1の会社が企業価値では3倍以上に達しているという一見矛盾に満ちた状況にある。

テスラ(Tesla)の躍進

アメリカと日本では株式市場の規模が違うとかロビンフッダーをはじめとするアグレッシブな若年層がテスラ株に殺到して異常な水準に押し上げているとか原因はいろいろ探せるが、これはこれから到来する移動手段の急激で革命的な変化に対する市場からの明確なメッセージではないかと個人的に考えている。

非ガソリン車転換への動き

ガソリンなど化石燃料オンリーの車から他のエネルギーを動力にする車への移行の流れはますます明確になってきている。アメリカ、中国、インド、ノルウェー、オランダ、イギリス、フランス等々、2025年〜2040年ぐらいまでの間にガソリン・ディーゼル車の販売を禁止し、そのときまでにすべてEVやハイブリッド車(HV)、新エネルギー車(NEV)へ変換してゆくことを目指している国は多い。

明確な時期こそ決定されていないが日本も「脱炭素社会」への流れの中、同様の議論が行われている。これから買い替えによる需要増大が確実なEV及び新エネルギー車のメーカーを抑えておくことは今後の投資を考えるうえで重要な要素である。現在はまだガソリン車が主流の時代であるが、2019年の世界の自動車の販売台数ランキングは以下の通りである。

※[上場している証券取引所:株式コード]

1位:フォルクスワーゲン(ドイツ)1,097万台[フランクフルト証券取引所:VOW]
2位:トヨタ自動車(日本)1,074万台[東京証券取引所:7203]
3位:ルノー・日産・三菱自動車連合(日本・フランス)1,015万台[ユーロネクスト:RNO、東京証券取引所:7201,7211]
4位:ゼネラルモーターズ(米国)771万台[ニューヨーク証券取引所:GM]
5位:現代自動車グループ(韓国)719万台[韓国取引所:005380、ロンドン証券取引所:HYUD]
6位:フォードモーター(米国)538万台[ニューヨーク証券取引所:F]
7位:ホンダ(日本)518万台[東京証券取引所:7267]
8位:フィアット・クライスラー・オートモービルズ(オランダ)442万台※PSAグループと経営統合
9位:PSAグループ(フランス)349万台※フィアット・クライスラー・オートモービルズと経営統合
10位:ダイムラー(ドイツ)334万台[フランクフルト証券取引所:DAI]

一方でEVとPHV(プラグインハイブリッド車)の2020年の販売台数ランキングは以下の通りである。

1位:テスラ(米国)499,535台[Nasdaq:TSLA]
2位:フォルクスワーゲン(ドイツ)220,220台[フランクフルト証券取引所:VOW]
3位:比亜迪(BYD)(中国)179,211台[香港証券取引所:1211]
4位:上汽通用五菱汽車(SGMW)(中国):170,825台
5位:BMW(ドイツ):163,521台[フランクフルト証券取引所:BMW]
6位:ダイムラー(ドイツ):145,865台[フランクフルト証券取引所:DAI]
7位:ルノー(フランス):124,451台[ユーロネクスト:RNO]
8位:ボルボ(スウェーデン):112,993台
9位:アウディ(ドイツ):108,367台
10位:上海汽車集団(SAIC)(中国):101,385台[上海証券取引所:600104]

世界のEV・PHV・HV・NEVメーカー

ガソリン車メーカーを経験していないテスラ(Nasdaq:TSLA)の存在感が大きいので、似たような新規参入者がぞくぞくと顔を出すのかと思いきや2位以下はすべて既存のガソリン車メーカーだった。やはり動力がエンジンからバッテリーに変わっても、ステアリングとかブレーキとか他の構造部分にも膨大な技術の集積がある自動車メーカーが有利なのだろう。

テスラは2位のフォルクスワーゲンに2倍以上の差をつけているがランクインしている米国のメーカーは同社だけだ。フォルクスワーゲン、BMW、ダイムラー、アウディとドイツが4社、比亜迪(BYD)、上汽通用五菱汽車、上海汽車集団と中国が3社をトップ10に送り込んでいる。

国をあげて再生可能エネルギーへの転換を図っているドイツはEV充電施設導入への助成を積極的におこなっており、急速にガソリン車からEV・PHVへの買い替えが進んでいる。現時点でドイツにおけるEV・PHVのシェアは全登録車の20%以上を占めている。

すでにガソリン車で確立されたブランイメージを持つドイツ勢はまずは世界に先駆けて国内の需要を満たしながら経験値とノウハウを蓄積し、その販売網を活かしてEV車のシェアの獲得を目論んでいるはずだ。ウォーレン・バフェットも投資している比亜迪(BYD)は本土の配車サービス利用時に乗ることも多くなってきた。「唐」「漢」「秦」など日本人にも馴染みのある王朝の名前を車名に使っていてインパクトも強いし、ブランディングが上手な企業だと思う。

彗星のようにランキング上位に現れた上汽通用五菱汽車はテスラをはじめ軒並み”高い”という印象のあるEV業界に最低RMB28,800(約44万円)の価格破壊モデル「宏光MINI EV」を出し、発売後たった5ヶ月で約12万台を販売した。2021年の販売台数では比亜迪(BYD)を上回ることが今から予測されている。

一方、日産自動車が14位、トヨタ自動車が17位と現時点では日本の自動車メーカーは後塵を拝している形。まだ、首位の販売台数でも50万台の市場であり、ヒット商品の開発により一気に業績を伸ばして上位に上がってくることも多い市場なので日本のメーカーには今のうちに巻き返してほしいものである。

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