「領土問題」はセンシティブな話題である。
海外との行き来が安く簡単になって久しい。自分がでかけていったり、あるいは外国人が日本を訪れてたりして友人になることも少なくないだろう。仲良くなったらいろいろな話もすることだろう。しかしもしそのとき図らずも領土問題の話になったら。。
領土問題の話題に関する準備
口論になるのは誰だって嫌だ。しかし争いを避けるために「私はどうでも良い」という態度でトラブルを回避するだけでは決して尊敬されない。理路整然と自分の考え方を相手に伝える必要がある。
もし中国人、韓国人、ロシア人などの外国人の友人と領土問題と巡って意見が対立した場合、準備している説明は以下の通りである。
尖閣諸島
何度も現地調査をおこなった結果、どの国にも属していないと結論づけた明治政府が1895年日本の領有を閣議決定。1940年に無人島になるまでは実際に日本人が居住していた。
敗戦後サンフランシスコ平和条約により沖縄の一部として米国の施政下に入る。1972年の沖縄の本土返還時に尖閣諸島も一緒に日本に戻って来た。日本の尖閣諸島に対する領有権は正当なものである。
ちなみに中国が尖閣諸島の領有を主張し始めたのは1971年。それに先立つ1969年に国連の調査でこの地域に豊富な海底地下資源が眠っているということが明らかになったあとのことだった。
竹島
1905年に明治政府が竹島の領有を閣議決定。それから一貫して竹島は日本の領土として存在。敗戦で日本全体が米国の占領下に入るが当然そのときも竹島はアメリカの管理下に置かれた。
サンフランシスコ平和条約による日本の国際社会復帰を前に韓国はアメリカに対し、竹島を日本に放棄させて韓国領にしてくれと要求するが断られる。
その後、当時の韓国の大統領李承晩が「李承晩ライン」という韓国の領土線を日本海上に勝手に引き、竹島を韓国側に入れて軍隊を駐留させてしまう。李承晩ラインは国際的承認を得ておらずのちの日韓基本条約で廃止されている。
日本の竹島に対する領有権は正当なものである。
北方領土
日本とロシアの領土に関わる最後の条約は日露戦争後、1905年に結ばれたポーツマス条約。その時点の日本の領土はカムチャツカ半島の手前の島である占守(シムシュ)島以下全千島列島と北緯50度以南の南樺太である。
第二次大戦中に日本とソ連は日ソ中立条約を結んでいた。1945年、日本の敗色が明らかになるとソ連は今後条約の更新をしなと日本に通告してきた。現条約の効力はあと一年を残していた。それにも関わらず、長崎原爆投下当日の8月9日にソ連は条約を無視して日本に宣戦布告。
樺太と千島列島に侵攻し日本人を追い出してそのまま居座ってしまった。その支配に対する国際的承認の根拠はなく、日本の北方領土に対する領有権は正当なものである。
台湾
封建時代の王朝を含めて中国本土の中央政権が山岳部を含めた台湾の隅々まで実行支配したことがないという理由で「中国は一度も台湾を領有したことはない」という主張もあるようだ。
しかし日清戦争後の1895年、下関条約で当時の戦勝国である日本が清国が統治機関を置いていた台湾省の割譲を受けたのは事実である。日本は1945年まで台湾の統治を続けたが敗戦時に当時の中国中央政府である中華民国(蒋介石の国民党政権)が台湾を自国に編入した。これは1943年のカイロ会談での戦勝国取り決めに基づいたものだった。
1949年に共産党が武力で全土を制圧し中華人民共和国が成立。敗れた国民党は台湾に逃れ台北を中華民国の臨時首都とし、双方が正当な中国中央政府であることを主張した。この時点では共産党も国民党も明確に「一つの中国」を主張していたのである。
その後台湾では李登輝が総統に就任し「二つの中国」の基となる考え方である両国論が展開した。台湾の独立を目指す民進党の躍進もあり「一つの中国」を堅持する中国共産党政府と対立を深めている。すなわち従来双方が主張していた「一つの中国」の原則を堅持している中華人民共和国と今はそれを覆して独立を目指す機運が高まっている台湾がぶつかっている構図である。
南シナ海
南シナ海にはベトナムの東240km、海南島の南東約300kmの位置にある西沙諸島とボルネオ島のマレーシアやブルネイに近い南沙諸島がある。居住に向かない小さな島や岩礁で形成されていて、19世紀まではほとんど人が訪れることもなかった。第2次世界大戦中はその多くを日本が領有していたが敗戦後サンフランシスコ講和条約によりすべて放棄、放棄後に各島々がどの国に帰属するかは取り決めがなかった。
1945年に中華民国(現在の台湾)が領有を宣言し一部の主な島を占領、1953年には中華人民共和国が一部を除いた中華民国の領有部分を引き継ぐ形で「領海宣言」を出す、1956年には南ベトナムが諸島の一部に行政区を設定、1971年にはフィリピンが一部の島々を占領、1993年にマレーシアが一部地域の実効支配を開始、この他ブルネイも軍を派遣せずに一部地域の領有を主張している。
要するに場所や範囲はいろいろだが、どの国も勝手に島の領有を主張し、人工島や施設を作ったり人を配置したりして実効支配をおこなっている状態。それが南シナ海の領土問題である。
強大な経済力や軍事力を背景にそれを最も大規模にやっているのが中国。軍用機が発着できる滑走路や対地空ミサイルを格納できる構造物など大型の軍事施設の建設をおこなっている。
一方で2016年にはオランダ・ハーグの常設仲裁裁判所は中国が南シナ海のほぼ全域で領有権を主張する独自に設定した境界線「九段線」には国際法上「歴史的権利を主張する法的根拠はない」と認定、中国が南沙諸島などで人工島の造成などをしている岩礁はすべて「島」ではなく「岩」または高潮時に水没する「低潮高地」であると認定する裁定を受けている。
つまり中国は国際司法から南シナ海の島々の領有権を否定された唯一の国となっている。