先日「イミテーションゲーム」という映画を見た。コンピュータ誕生の基礎を作り、人工知能の父と呼ばれる英国人アラン・チューリング博士の物語である。
チューリングと精鋭チームは第二次世界大戦中に難解なナチスドイツの暗号「エニグマ」を解読する。暗号がわかっているので敵がいつどういう攻撃をしかけてくるかも知るところとなるが英国はすぐにはドイツからの攻撃を避けようとしない。これまで劣勢だった英国が突然すべての攻撃に対処できるようになるとドイツがエニグマ解読を察知して、新たな暗号を作ってしまうからだ。なので、すべて知っているにもかかわらずある程度味方を犠牲にして、暗号がわかっていることを隠しながら2年間かけてトータルの犠牲者数をできるだけ抑え戦争に勝利できるように仕向けてゆく。助かることもできたのにみすみす犠牲になってしまった人たちにとってはたまったものではないがそれも人間の考え方の現実である。
2017年5月14日早朝、北朝鮮が発射した火星12というミサイルはロフテッド軌道なる通常より高い角度で打ち上げられて飛翔し2,000kmの高度に達して800km離れた日本海上に落下した。分析によると通常の角度で発射されたとしたら4,000kmぐらい飛んでハワイやアラスカを射程におさめるらしい。
思い返せばトランプ大統領が「中国が北朝鮮に何もしないのならアメリカ単独で行動する」と言って米海軍空母などを北朝鮮に振り向けることになったのは4月上旬のことである。約1ヶ月半前が今回の緊張状態の始まりと言って良いだろう。アメリカの圧力に対して多少はおとなしくなるかと思いきや北朝鮮はその後も4月16日と29日にも弾道ミサイルを発射している。
この2回の発射は失敗したので一部にはサイバー攻撃が機能しているのではないかという期待もあったが、今回の発射成功(?)で疑問符がついた。最も心配されていた核実験はまだおこなわれていないが。実際に北朝鮮がどのぐらいの脅威であるかを正確に知ることは我々庶民にはできるはずもない。実際に起こったことを見て想像するしかない。現時点では北朝鮮がミサイル開発も核保有もまったくあきらめる気がないというのは確かに思える。資源が乏しく貧しい自国が生き残る唯一の方法が大量破壊兵器を持って他国の国民の命を人質に取り、援助を引き出すことであると考えているようだ。
「自国」というのも違和感がある。北朝鮮はもはや国というより金一家という強力に武装した反社会的組織のシマといったイメージの方がぴったり来る。いずれにしてもこれだけ矢継ぎ早な発射実験をやるということはまだ彼らが目標とする力は持つに至っていないということだろう。だから一刻も早くそこに到達しなければならない、と実験や示威行動を乱発しているのだ。
中国が援助を止めれば北朝鮮は3日ともたないという話もあるが仲良くなさそうに見える中国がそれを続けなければならないのにも我々にはわからない深い理由があるのだろう。北朝鮮が潰れたらアメリカの同盟国と国境を接することになるのが嫌だとか難民が国内に流入して困る、とか想像できる範囲以上の事情があるのかもしれない。
象とアリほどの軍事力差を持つアメリカが本気で攻撃すればそれほど時間をかけずに北朝鮮を制圧できる可能性は高い。憶測の域を出ないが、北朝鮮は核実験には成功しているものの実際に兵器として使える状態であるかは怪しいのではと思う。だが北朝鮮に一旦攻撃をしかけたら、なりふり構わず暴発する。仮に核兵器や大陸間弾道弾はまだ実用できないとしても通常の兵器で近場の韓国や中国、日本などを攻撃をするのは充分に可能だろう。それを避けたいので「話し合いで何とかなれば。。」というのが我々の願いなのである。だが北朝鮮がそれに応じず米国本土を脅威にさらす攻撃力を持つに至るという目標一点に絞っている場合、時間の経過はあちらの有利に働く。
いまさら言っても仕方がないがもっと前に解決しておくべきだった。ここ最近10年程度の歳月を使って北朝鮮は結構大きな怪物に育ってしまった。放っておけば今後も怪物は育ち続ける。先延ばしにするのが理想的な選択でないことは間違いないようだ。ある程度の犠牲を覚悟して今決着をつけてしまうか?(エニグマ解読時と同じような計算もしているのだろうか。。)あるいはいっそのこと北朝鮮を核保有国と認め、充分な援助をして国際社会で受け入れるのか?極東地域が歴史的な判断の岐路に立っているのは間違いない。