上海からの帰りの便で観た映画「太陽の帝国(Empire of the Sun)」
スティーブン・スピルバーグが撮ったこの作品をはじめて観たのは劇場公開時の1988年の学生時代。すぐに気に入り、もう一度映画館に足を運んだ。同じ映画を観るために2度映画館に行ったのは後にも先にもこの映画だけ。それでは飽き足らず、アルバイト学生の乏しい生活費から2万円弱を捻出してVHSのビデオを買って何度も鑑賞した。作品は今回も新鮮な印象を与えてくれたがあれからもう30年前も経ったのか。確かに主人公の子供を演じていたクリスチャン・ベールも今やオスカーも獲得した中年の名優だ。
しかし中国人が多い。日曜日の夕刻銀座の歩行者天国を散歩してみたら、聞こえてくるのは中国語ばかり。ドラッグストアに入れば店員が普通に中国語で話しかけてくるのでついついそのまま応じてしまいそうになり、”おっと、いかん、いかん”と頭を切り替えて日本語で返事をする。(別に良いのだが、本国では間違えて欲しくないという気持ちが多少はある)食事をしようとラーメン屋に入ると、アジア系らしい家族連れの観光客が「すみません。食事はしないのですが子供たちにトイレを貸してもらえませんか?」と英語で頼んでいるシーンに出くわす。
日本人はあまり大声で話す習慣がなく目立たないからかもしれないが、銀座など観光地を兼ねた繁華街ではむしろ日本人より外国人の方が多いのではないかという感じさえする。自分が東京で暮らしていた当時は明らかにこうではなかった。何がそんなに変わったのだろうか、と「太陽の帝国」が放映された1988年の日本と中国のGDP(国内総生産)を調べてみると当時の日本それは約3兆ドル、中国は約4,000億ドル(0.4兆ドル)。7.5倍の開きがあった。人口をざっくり10倍と考えると当時の中国人1人あたりのGDPは平均で日本の70〜80分の1だったことになる。
1989年に天安門事件があり中国は経済制裁を受けてGDPは一旦マイナスに転じ、同じ水準に回復するのは1992年。その後の中国の経済成長は目覚ましい。毎年7〜10数%の経済成長率を記録した中国のGDPは6年後の1998年に1兆ドルを超え、2005年に2兆ドルを超えるとその後は3兆ドル、4兆ドル、5兆ドルと兆の位を毎年切り上げてゆき、2010年には日本を抜いてGDPで世界第2位に躍り出た。2017年時点では日本が4.9兆ドルに対し、中国は12兆ドルと逆に2倍以上の水を空けられている。(ちなみ第1位のアメリカは19.4兆ドル)
1990年12月19日の株価を基準値100とする中国の主要株価指数である上海総合指数は現在3,000の近辺を推移している。(最高値は2007年10月16日に記録した6124,04)不動産は指数的なものがないので自分の体感になるが2000年からの上海の不動産価値は15倍ぐらいにはなっている。「HNWI(High Net Worth Individual)」というのはUSD100万(約1億1,000万円)以上の純金融資産を持つ富裕層の定義だが、中国はこの富裕層が現在約360万人いて約120万人(※)の日本の3倍に達する。(ちなみに第1位のアメリカは約660万人)※不動産など固定資産を含めて1億円以上の資産を持っている日本人は約280万人。これほどの変化をもってすれば銀座に中国語があふれるようになってもおかしくはないということか。
我々日本人にとって中国はかつて安い製品を買う・仕入れる場所という意識だったが、いつの間にか中国人にモノを買ってもらうことに一生懸命になっているのも当然の流れなのだろう。
第二次世界大戦中の中国を舞台にした「太陽の帝国」は第二次世界大戦後初の中国ロケを敢行したアメリカ映画だそうだ。1980年代後半の撮影当時の上海がフィルムに収まっている。
経済成長が始まる前の中国。そこに映る中国人ももちろん我々日本人も予想だにしなかった未来が今ここにあるな、という妙な感慨にとらわれながら香港に到着した。