中国深圳での中国銀行の定期預金解約と出金、そして資金の国外への持ち帰りの依頼が増えている。
長期の定期預金が満期になる時期が来たり、ドル円の為替レートがUSD1=JPY154というバブル時代以来34年ぶりの円安状態にあること、そしてコロナウィルスの2類から5類への移行から約1年が経ち、海外渡航への抵抗感も薄らいだことなどが複合的に作用していると思われる。
中国銀行における人民元定期預金
現在は5年定期で最高2%程度の人民元の利息だが、12、13年前には5%を超えていた時があった。当時から低金利の日本は言うに及ばず、アメリカもリーマン・ショックに起因した不景気から脱出するための大規模金融緩和(QE)を行っていた時期で米ドルの政策金利は0.25%程度だった。世界同時金融危機からいち早く回復して、好景気に沸いていた中国は主要国の中では唯一の高金利状態。その時に中国本土まで足を運んだ鋭い投資家たちがエグジットの好機と捉えているのだ。
2010年代前半の人民元の金利
きっかけは2010年10月に人民元の5年定期預金金利がそれまでの3.6%から4.2%へと一気に0.8%も引き上げられたことだったと思う。USD1=8.3元という為替レートで米ドルと固定されていた人民元は2005年7月に一日の変動幅に上限下限を設定する形で緩やかな為替変動を容認する管理フロート制という新たな管理変動相場制を採用した。
当時「世界の工場」と呼ばれ、輸出産業を中心に飛ぶ鳥を落とす勢いで経済成長を遂げていた一因には人民元が実態にそぐわない安値に留め置かれていたことが作用していたのは間違いなく、貿易赤字に苦しんだアメリカをはじめとする先進国による人民元切り上げの要求に応えた形だ。これは1970年代にUSD1=JPY360の固定相場から変動相場への移行を迫られた日本円と似た構図である。
日々わずかとは言え、人民元が毎日上昇を続けるのは必然となり、2010年代前半には約USD1=6元ぐらいまで30%程度上昇しているところだったので、当時の雰囲気としては「価値が急激に上昇中の高金利通貨」という千載一遇のチャンスだったわけだ。その後、中国銀行の人民元定期預金金利(5年物)は以下のように変遷した。
2010年12月:4.20%→4.55%(+0.35%)
2011年2月:4.55%→5.00%(+0.45%)
2011年4月:5.00%→5.25%(+0.25%)
2011年7月:5.25%→5.50%(+0.25%)
2012年6月:5.50%→5.10%(-0.40%)
2012年7月:5.10%→4.75%(-0.35%)
定期預金という極めてリスクの低い投資でこれだけのリターンが確約されているというのは間違いなく有利な投資であると言える。しかも当時のドル円レートは1ドル100円を切る超円高状態。そのためこの時期に中国銀行に口座開設し、5年定期を組んだ人は非常に多かった。その後、2014年11月に5年定期が募集中止となり3年定期が4.00%となり、2016年には中国非居住者の中国銀行口座開設ができなくなったので、日本居住者によるこの投資手法は終わりを告げることとなった。
人民元定期預金の解約と出金
この人民元定期預金、有利な投資ではあったが面倒なこともある。中国から海外への送金はできないため、預金を引き上げるときは一度中国に行って窓口で定期解約と出金手続きをして、現金を自分で持ち帰らなければならないのだ。2012年頃に5年定期を組むと満期は2017年なのでその頃に中国に入って預金を引き上げた人もいたが、一方で満期を過ぎても「行けるときに行こう」と考えていたまま香港の民主化デモやコロナパンデミックで渡航時期が延びてしまい、今ようやく資金の引き揚げに来るという人が多くなっているのだ。
中国銀行の定期預金は満期を過ぎたら、そのときの金利で同じ期間の定期が自動的に組まれることになっているので、金利は下がっていても定期預金で運用されている。ただ5年定期は2014年で一旦廃止されているので、おそらく1年定期か3年定期で延長されていると考えられるが一時期より下がったとは言え、日本円よりはずっと高い利息を得られる。
日本人投資家が今人民元を持ち帰るメリット
しかしこの時期に中国銀行の定期解約と資金回収を行なう何よりのメリットは2024年4月19日の今日現在で約1ドル154円という円安だろう。日本円と人民元のレートは約RMB1=JPY21である。2012年の前半に中国銀行の口座開設して定期預金を利用した人は非常に多かったが、その頃の日本円と人民元の為替レートは約RMB1=JPY12だった。仮に当時100万円を中国に持って行き、人民元に両替すると約RMB83,000になる。それで5年定期を組めば5年後にはRMB105,825になる。その後の7年間も少なからずの金利はつくはずだが仮にそれを無視したとしても今日それを日本円に戻すとすれば222万円になっている。
12年間で2.2倍。もちろんこれぐらいのパフォーマンスを記録する投資は他にもあるが、それにはある程度のリスクを取らなければならない。一方でこれは超低リスクの運用である定期預金で叩き出した数字ということを考えればこの投資は大きな成功と言って間違いないだろう。また多くの人は同時にHSBC香港で口座開設をしている。
10年経って新しいパスポートも発行されているはずなのでその更新作業他HSBC香港の諸々のメインテナンスを含めて一度中国・香港を訪れるには良い時期だと言えるだろう。