「今香港にいるのですが、明日急遽口座開設のサポートをお願いできませんか?」と、ときどき連絡をもらうことがある。

我々のサービスを知っていてくれるのはありがたいことだ。一方でこの連絡は一抹の気まずさを感じる結果につながることもある。こうして突然連絡をくれる人の多くは自分でHSBC香港の口座開設に挑戦したものの不運にも失敗した人も少なくないからだ。

HSBC香港で口座開設をしようとして失敗したときに懸念されるのが、「口座開設の申請を却下した」という記録を付けられることである。この記録は付けられるときもあれば付けられずに済むときもある。申請却下の記録が付けられていなければ、他の支店に行って再度トライして成功することもある。逆に記録を付けられてしまったときはそれがシステムで共有されてしまうので別の支店に行ってもダメである。

上記のように自分でトライしてから失敗したあと我々に連絡をもらうときもこれが大きな懸念点だ。申請却下の記録がついていなければ問題はない。自分で挑戦しようと考える人は少なくとも語学力に問題のない人が大半だ。なので我々が予約を入れて、質問と回答のシナリオを作って臨めば失敗することはほぼ皆無。しかし逆に拒否記録がある場合はどんなに頑張っても成功の見込みはない。

英語や中国語が得意だから独力で口座開設に臨む。その姿勢は決して悪くない。だが言葉ができるというは実際は門前払いを防ぐ程度のものに過ぎない。(いやむしろ門前払いを食らったほうがまだマシかもしれない、拒否記録をつけようがないからだ)言葉が通じればとりあえず中に入って口座開設手続きを始めてもらえる。

だがそうして奥に通されてからいろいろと質問がある。内容は、「HSBC香港の銀行口座を開設する目的は何か?」とか、「今日はいくら預金するのか?」とか、「今後どのくらいの頻度で入金する予定があるのか?」等々、銀行としてはごく当たり前のことを訊いてくる。重要なのはその質問に対する回答が銀行の意向に沿うものでなければならないということだ。

例えば口座開設の目的を訊かれて「ビジネスで得た資金を入金するため」と回答したとする。海外で何かしらの取引をして受け取ったお金をHSBC香港の口座に送金してもらう。それ自体は何ら悪いことではない。得た利益をきちんと申告、納税しさえすればまったく問題のない行為だ。だから回答する方はそれが理由で口座開設を断られるなど予想もしていない。ところがその回答をしてしまえばまず拒否される。

HSBC香港の概念ではビジネスは法人口座でやるべきものであり個人口座でそれをおこなうのは違う、という基準を持っているからだ。これはおそらく社内のポリシーとして決めていることだと思う。

一般常識的に間違っていなくてもこうして思いがけず拒否されてしまうことがある。上記のように社内のポリシー的なことが原因でなくてもマネージャーや担当者の判断によって拒否されることもある。口座開設を受け入れるかどうかの判断は支店のマネージャーに委ねられているのでその人の感覚に左右されるのである。

マネージャー・担当者の考えに沿うように質問に回答する配慮が求められるのだ。これを克服するにはもうその人と知り合いになり、どういう考えを持っているか把握する以外に方法はない。またそうした人間的な問題をクリアしてもその人が別の部署に異動していなくなってしまうこともある。

そのときは往々にして以前は容易に開設できたのに急に厳しくなった、ということも起こる。ネットなどで他の人の成功体験談を見て訪問したのに自分のときは異常に厳しくて失敗した、というのはだいたいこれが原因である。情報は嘘ではないが今は有効ではないということだ。状況は常に変わっているので、「どこでどういう風に対処したら成功する」という情報を常に更新しておく必要がある。それを可能にするためには現地で常に情報収集を続けていなければならない。

我々のサポートを受ける一番重要な点は間違いなくその部分である。

 

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