「クリプトルーブル(Crypto Ruble)」なるものが導入されるというニュースが世界を駆け巡っている。クリプトルーブルのクリプト(Crypto)は暗号通貨の「暗号」、ルーブル(Ruble)はロシアの通貨である。つまりロシアという国家が主体となり暗号通貨(仮想通貨)を発行するということである。
疑問はいろいろとある。ビットコインをはじめとする暗号通貨の多くはその通貨の出入金の記録をデジタルデータとしてインターネット上の複数のユーザーが同時に分散管理する「ブロックチェーン」の技術をその信用の裏付けとしている。すなわち世界中に散らばっている人間が共同で監視及び管理をしていると言っても過言ではなく、それによって誰かが独裁的にコントロールすることのできない非中央集権的なシステムで動いていることが一番の特徴である。
一方、日本円や米ドル、ルーブルなどの従来の通貨はそれぞれの国・地域の中央銀行が独占的に発行・管理できる中央集権の権化みたいなものでブロックチェーンのコンセプトとは対極に位置するように思える。また新たな取引記録にブロックチェーンに追加するときに膨大な計算をおこなってその整合性を確認する作業の対価として新たに発行された通貨が受け取れる「マイニング」という仕組みも利用されるのか?、またその場合景気対策としておこなっている通貨量調整などはどうするのか?、等々。
技術的なものを深く考えても素人には限界があるのでそこは飛ばして、国家や地域による暗号通貨が普及したあとの世界を勝手に想像してみたい。仮に日銀がクリプト円を発行してそれが経済活動に使われるとする。何かを買うときもスマホで自分のウォレットにアクセスしてログインのパスワードや本人確認の認証を通じて簡単にクリプト円で決済が完了する。現金を持ち歩かなくて済むのでお金を落としたり、スリや強盗に強奪されることはなくなるだろう。もちろんデータはネット上に存在するので決済に使うスマホを失くしてもデータ化された自分のお金がなくなることはない。そういう意味では安全度は増すかもしれない。
今は銀行を通じておこなっている送金も本人同士が端末を通じて簡単にできるようになる。預金や融資に関しても国民が直接日銀と取引できるかもしれない。銀行は日銀からお金を借りてそれを国民に融資する、あるいは預金者から預かったお金を資金を必要としている人に融通する仲介業者である。
従来は夥しい数の人々に対する対面手続きとペーパーワークを引き受けていたがすべてをオンラインで処理できるクリプト円の出現によりそれらの作業の多くは無くなるはずだ。国営の組織による独占はかつての社会主義国家を思い起こさせて少々居心地が悪いが効率を追求するならばすべて日銀との直接取り引きで事が済みそうである。
すべてがクリプト円に置き換わり、取引の一切が検索可能になると行政も非常に効率的になるだろう。収入と支出がすべて記録されるので所得税から消費税に至るまですべて源泉徴収できそうだ。国民年金の未納とか年金の支給漏れなども根絶できるはず。その時代を生きる人には節税、脱税に知恵を絞っていた時代があったなど想像もできないことではないだろうか。不正もエラーもなくなる代わりに資産や日々の経済活動のすべてが中央銀行ひいては政府が把握できることになる、、だろうか?
個人的にはそんなに簡単ではないと思う。というのも、世界には200近い主権国家がありそれぞれが通貨発行権(EU諸国など一部の国を除く)を持っているからだ。経済のグローバル化が進んだ今日、外国との往来や交易は避けられず、誰もが自国通貨以外を持つ必要性に迫られる。
もしかしたらクリプトドルとかクリプトユーロとかが発行されてすべてがブロックチェーン上に記録され,そのデータを世界中で共有することも可能だろうが、まず諸国のエゴがぶつかって進まないだろう。これまでの様々な出来事を見ても、アメリカだけブロックチェーングループに加入しない(そして国家の把握を恐れたマネーがドルに殺到)みたいなことは多いにありそうだし、中国が自分の築いた城壁に囲まれた中だけで独自のルールで運営しようとする姿も目をつぶった瞬間に思い浮かぶ。
もちろん世界統一国家かあるいはせめて世界統一通貨でもできれば話は別だが各国にそれぞれの権益や野心を持った人々が存在する今の世界がそちらに向けて歩み出す姿だけはどうにも想像が難しい。。