2023年12月15日現在、ドル円レートは1ドル141円〜142円。11月初めから中旬まで2週間ぐらい150円台で推移していたところからまさに急騰という感じで1ヶ月の間に10円(約7%)の円高に振れたという感じだ。
そもそもは11月の下旬に感謝祭の連休を前にこれまでのトレンドにそってドル買い円売りのポジションを取っていたトレーダーたちがこぞってポジションを整理したことで147円台ぐらいまで上昇、12月7日に植田日銀総裁が国会で「チャレンジングな状況が続いているが、年末にかけて一層チャレンジングな状況になる」と発言したことにより、一気に141円台をつけた。そのときはまた急激に146円台の円安方向に戻ったが、12月13日のFOMCで3回連続の米ドル利上げ見送りが決まってからしっかり141円まで円高が進んでいることになる。
チャレンジングショック
しかし植田総裁の「チャレンジングな状況が続いているが、年末にかけて一層チャレンジングになる」というのはいったいどういうことなのだろうか?市場の反応は確かにチャレンジングという言葉から、いよいよ現在-0.1%のマイナス金利を解消し、金融緩和政策に終止符を打つと解釈したのだろう。だから、日本円とドルをはじめとする主要通貨の金利差の縮小→円安状態の是正という連想で激しく円高方向に動いたのは間違いない。
チャレンジングの真意
チャレンジングというのは「挑戦」と意味もあるが挑戦が要求される「困難」であるという意味にも取れる。日本語に英単語を入れて話すのは世代的についついミスタープロ野球やルー大柴を思い起こしてしまうが、自分に置き換えてみるとそれを使う心理としては日本語で言うと刺激の強い言い方になるのを和らげるためかと思う。
植田総裁は上の答弁の前には「自分が難しい状況で総裁職を引き受けたのはチャレンジングであり、、」とか「実際(総裁を)やってみると思った以上にチャレンジング、、」というようなことを言っている。就任時にすでにチャレンジングだったということになりその後今までマイナス金利政策を維持しているので、これはどちらかというと、「挑戦」よりも「困難」という意味に近いのではないかと思う。日銀総裁が「困難」という言葉をそのまま使うのは「チャレンジング」より刺激的だ。従って本当に年末に利上げがあるかどうかはまだわからないと個人的には感じている。
翻って、政府日銀は一時為替介入を匂わせてまで円高に歯止めをかけたかったと思うが、この「チャレンジング」発言がコストを伴わない口先介入として極めて効果的だったということも事実だろう。狙ってやったのならある意味天才的である。
2023年最後の日銀金融政策決定会合
いずれにしても今年最後の日本の政策金利発表となる日銀金融政策決定会合は来週12月19日(火)、そこで「年末に向けた一層のチャレンジング」の真意について答えが出る。しかし仮に日本の政策金利が現状維持だとしても、米国、欧州などが来年利下げ局面に入る可能性は充分にある。あちらから勝手に金利差を縮めてくれば、もちろん円高の要因になる。
そして年末のチャレンジングがどのような結果になるかに関わらず、来年2024年はまだ別の話である。2016年から8年続いているマイナス金利がまず金融政策として異常な状態であるというのは思い出しておきたい。2008年頃のように日本の政策金利が0.5%ぐらいまで戻るかどうかはとても見通せないが、マイナス金利解消と主要国の利下げの次第によっては日本円は大きく動くかもしれない。
しかし15年前のリーマンショック以降アメリカがQEと呼ばれる大規模緩和政策を行っているそばで弱い緩和策しか採らず1ドル80円台という超円高を招き、今回は主要国がこぞって利上げ・引き締めに走っている中で唯一マイナス金利の超緩和策の継続で150円台の円安を見にゆく。常に世界の逆をゆく日本円の2024年の動きには否応なく注目せざるを得ない。