1990年半ばに上海に行き、それ以来中国界隈で暮らしているので不動産価格の高騰は身をもって体験した。
はじめて現地の不動産価格を強く意識したのは2000年頃だったが、当時上海で見た物件の平米単価がRMB4,000(2021年9月のレートで約7万円)だったのを記憶している。100平米のマンションが700万円ぐらいで買えたことになる。
中国不動産の今昔
その頃ぐらいから昔ながらの粗末な低層住宅が取り壊されては近代的なマンションが雨後のたけのこのように次々と建設されていった。不動産価格はうなぎのぼりで上海では数年で価格の桁が変わり、10年後には総じて10倍ぐらいにはなったはずだ。最近になっても上海で平米単価10万元以上の高級物件が成約したみたいな話を聞いたので、普通の物件でも6〜7万元/㎡はするのだろうか。
2000年代半ばにはすでに「中国の不動産はバブルだ」と言われ、「ついにバブル崩壊か!」とささやかれた時期は何度かあったが一向に弾けないまま逆に上昇を続けながら10数年が過ぎている。
恒大集団(Evergrande Group)
中国第二の規模を誇る不動産デベロッパー「恒大集団(Evergrande Group)」が33兆円という巨額の負債を抱えてデフォルト・破綻の危機にあることが連日ニュースで取り上げられている。この会社はマンション開発業者として1996年6月に広東省深センを拠点に創業者の許家印氏と十数人の社員でスタートした。ちなみに深センの物件の平均平米単価は現時点で上海よりも高い。
まさにドンピシャのタイミングでドンビシャのビジネスを展開し、25年後の現在年間の売上が8兆円、従業員数20万人という巨大企業に成長し、創業者は現在中国で3本の指に入る富豪とのこと。
ちなみに個人的にはじめて香港を訪れたのは1996年1月。上海から深センにフライトしてそこで一泊して陸路で香港へ入った。非常に印象深くそのときの風景は今でもありありと思い出すことができるが当時まだ恒大集団は設立されていなかったことになる。改めてこの25年の中国不動産市場の拡大は凄まじい。そんなマンモス企業が数ヶ月で破綻の危機に瀕してしまうというのもまたべらぼうな話である。
恒大集団の蹉跌
きっかけは2020年8月に中国政府により発表された「3つのレッドライン(三条紅線)」の規定だ。
3つのレッドラインは
「資産負債比率70%以下」
「自己資本に対する負債比率100%」
「短期負債を上回る現金保有」
の3つの基準である。
この条件に達しない不動産企業をランク付けし、銀行融資を制限させるという内容だ。そして2020年12月30日に発表された住宅ローンの総量規制。銀行の資産規模に応じて、総融資残高に占める住宅ローンなどの残高の上限比率を定めた。不動産デベロッパーは銀行から融資を受けてマンションを建設し、それを販売して利益を得る。
恒大集団が開業してから中国の不動産価格は一貫して右肩上がり、建築許可を得て工事を開始すれば出来上がるまでにどんどん価格が上がるのでボロい商売だった。国土が広く人口の多い中国ではいくらでも新しい住宅を作る余地がある。借りられるだけの資金を調達してアクセル全開で開発を進めていたのは想像に難くない。
顧客もやはり銀行融資(ローン)を利用して住宅を買う。都市部では普通に日本円で億単位に達する物件を現金で買える人などほとんどいないので当然のことだ。3つのレッドラインにすべて引っかかった恒大集団は新たな銀行融資を受けるのが困難になった。夥しい建設工事や販売を進めてゆくための融資の当てがなくなり資金繰りに窮した。
急がれるのは在庫として持っているマンションの現金化。3つのレッドライン規定が出来た翌月の2020年9月には3割引のキャペーンを打って現金回収に努める一方、銀行融資を通さずに資金を調達できる高利率の理財商品の販売に傾注した。そこにローンの総量規制がかかり、販売にとどめが刺されてしまった。その後は手元の現金を各地での建設にかかる支払いに充て続けて今に至るのだろう。現在は多くの工事がストップしているようなのでその資金も枯渇しつつあることが推測される。
理財商品の利払いは滞り、債権者が本社ビルに殺到している様子が盛んに報道された。
直近では
1.現金での分割払い、
2.不動産での代物弁済、
3.購入済みの住宅物件についての未払金で相殺する、
というオプションによりすべての債権者に償還が行われると発表されているが今後どうなるか。
いずれにしてもこれまでも断続的に持ち上がった中国の不動産バブル崩壊が噂された時期の中では最大級の局面を迎えているようには思える。