2018年6月に日本政府が掲げた「骨太の方針」そこには「少子高齢化の克服による持続的な成長経路の実現」と目標として外国人労働者に対して就労を目的とした新たな在留資格を創設する方針が打ち出されている。なし崩し的な移民受け入れにつながるのではないかという意見も多い。

移民受け入れ議論の背景

日本人の女性やシニアの就労環境を整える等々、その前にやれることはまだまだあるのに「安易な移民受け入れはけしからん!」という声も保守派などからは上がっている。安倍総理もそうした保守層への配慮からか「安倍内閣として移民政策をとる考えはない」と実際の行動とは矛盾にも感じられることを言っている。しかし日本は実質すでに移民国家へ舵を切っていると思わざるを得ない。

1990年の入管法改正により日系人の在留資格が認められるようになって以降2012年には外国人登録法が廃止されて外国人登録証が在留カードに変わり、2014年にはそれまで27種類だった在留資格が33種類になり(ここで「介護」が在留資格に加わった)2017年には外国人技能実習適正実施法が施行され外国人が労働力として日本に在留する下地が加速度的に整ってきている。実際技能実習や留学生も含めて日本で働いている外国人はすでに130万人近くにのぼっている。

コンビニの店員の多くが外国人であるというのは誰もが知っていることではないだろうか。技能実習の滞在期間が終わった実習生が日本に残り、不法滞在のまま働き続けているという現実もある。もちろん違法であるのだが、そんな彼らも実際に雇っている雇用主や一緒に働いている日本人の仲間がいて、それぞれの職場で貴重な戦力なのである。

言葉の定義上彼らを「移民」と認めるか認めないかは別にして、日本に長期間定住し生活している外国人がたくさんいる、そしてその数がどんどん増えているという事実は動かせまい。必要な労働力として日本の経済活動の一部を担っているのに違法であるという状態は良くないのでそれを解決しようするのは当然の流れだ。

移民受け入れに反対する人は「不法滞在者は国に帰ってもらうべきだ」という考え方になるかもしれないが、帰られると仕事が回らなくなる側は「彼らが合法的に働けるようにしてほしい」と願うだろう。その両方に配慮すると冒頭の安倍総理のようになってしまうのかもしれない。しかし曖昧な状態で結論を先延ばしにするのは危うい。

ドイツの移民政策失敗からの教訓

先例がある。第二次大戦後の経済復興に伴う労働力不足に悩んだ旧西ドイツでは1950年代からトルコやイタリア、旧ユーゴスラビアなどから「ガストアルバイター」という期限付きで働く外国人労働者を受け入れた。ガストアルバイター(Gastarbeiter)というのは英語で言うとゲストワーカー(Guest Worker)というところ。一時的に来国して働いてくれる「お客さん的労働者」という捉え方だったのである。

ドイツ政府としてはあくまで一定期間後本国へ戻ってもらうつもりだったのでガストアルバイターに対する社会保障制度やドイツ語教育を施すなどの社会統合政策を準備していなかった。だが期限付きのはずだった外国人労働者の多くは数年経って生活の基盤を築いてしまったドイツに残り、雇用者も熟練労働者となった彼らを雇い続けた。

貧弱な社会保障しか受けられない「移民」たちも家庭を作り子供を生んだ。「移民」の子たちは同じドイツ生まれなのに従来のドイツ人より不利な環境に置かれていることに不満を持った。その怒りがデモや暴動、テロなど様々な問題の原因になっている。

もしあのときドイツ政府がどこかでガストアルバイターが国内に残り移民となってしまった事実を受け入れてそれなりの法整備をしていればそうした問題を根絶とはゆかなくてもかなり小さくすることは可能だっただろう。今の日本はまさにその決断のタイミングにあると言えるかもしれない。

外国人受け入れと同時に考えるべきこと

一方最近中国人の知り合いたちと話していてよく”日本に対する憧れみたいなものが減ってきているな。。”感じることがある。彼らはだいたい中国では中流より上の層、ある程度の資産を持っていて日本の不動産は素直に安いと感じるような人たちだ。ひと昔前は彼らももっと日本語を勉強したい、日本に行って働きたい、日本人と結婚したいみたいな気持ちが強かったような気がする。

最近ではこちらが「これぐらい投資して事業を運営すれば経営管理ビザを取得して日本に滞在することができるよ」的な話をしてもあまり興味を示さない。以前は正直自分の中にも日本が移民を受け入れたら”皆来たがるだろうな”みたいな感覚があったが、案外そうではないかもしれない。

いかにインフラが整って生活環境が良くても税金の安くない日本は富裕層にとってそんなに魅力のある移住地ではない。逆に日本の富裕層で身軽な人はシンガポールなどに移住したりする。どういう人に来てもらうのかということも同時にしっかり考えた方が良いかもしれない。

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