2018年8月13日トルコリラ(TRY)は対日本円でTRY1=JPY15.4の史上最安値をつけた。年初はTRY1=JPY30ぐらいだったので約半分の水準まで下落したことになる。8月31日現在は少し値を戻してTRY1=JPY17程度で推移している。11年前の2007年には1トルコリラ当たり90円台だったのでその頃の実に6分の1程度にまで落ち込んだということになる。
トルコリラという通貨
かつて中東から北アフリカ、バルカン半島、黒海とカスピ海に挟まれたコーカサスまでを版図に収めたオスマン帝国が第一次世界大戦で壊滅し、共和国が成立してからトルコは慢性的な財政赤字や高いインフレ率で度々経済危機を引き起こした。2000年にIMF(国際通貨基金)が入り構造改革を実行、2002年以降はトルコの経済は回復し5%を超える成長率を記録するようになった。
インフレ通貨だったトルコリラは2005年に100万トルコリラを1新トルコリラとするデノミネーションを行い、2009年に新トルコリラをトルコリラという名称に戻して現在に至っている。今回のトルコリラの暴落の直接の引き金になったのはトルコ中央銀行の利上げの見送りと米国との関係悪化である。トルコは輸入が輸出よりも多い貿易赤字国なのでトルコリラが下落すると輸入品を中心とした物価が上昇し、国民生活を直撃する。
当然トルコ人は物価が上る前に商品を買ってしまおうと消費に走りがちになるのでインフレが促進されトルコリラはさらに下落する。またそういう状況において不安定なトルコリラを両替して外貨で持っておこうという当然の資産防衛活動も行われるので下落に拍車がかかる。それに歯止めをかけるためにトルコ中銀はトルコリラの政策金利を高めに誘導する。物価上昇率よりも預金金利の方が高ければ庶民は消費を控えて貯蓄するようになるのでインフレが抑制されるのである。
トルコの利上げ見送り
トルコの政策金利は2015年以来7〜8%で推移していたが、2018年5月には16.5%へ、6月時点で17.75%へと2ヶ月連続で利上げされた。ところが7月24日のトルコ中銀の定例会合ではさらなる利上げが見送られたのである。すでにかなりの高金利であるのだがより信認の高い米ドルの金利が上昇する環境下で弱いトルコリラはより一層の利上げが必要だった(と世界の投資家が考えていた)にもかかわらずそれを見送ったので失望されたのだ。
政治面ではエルドアン大統領が6月に再選されたことが大きな要因だ。強権的なエルドアン大統領は2016年にクーデター未遂事件を起こされているがその際にクーデターを起こした反政府勢力を支援したとして米国人牧師アンドリューブランソン氏を拘束している。アメリカは米国人牧師の解放を求めているがエルドアン大統領はそれを認めずに関係がこじれていたところに8月10日に米国のトランプ大統領がトルコから輸入している鉄鋼やアルミニウムの輸入関税を大幅に引き上げる措置を発表した。
それでトルコ経済が深刻な悪影響を受けると判断した投資家のトルコリラ売りが加速したのである。ところでこのトルコリラは一部のFX投資家にはとても人気のある通貨であり、今回の暴落で損失を被った人も少なくない。人気の秘密はスワップポイントである。
スワップポイントに足元をすくわれた投資家
スワップポイントはFX(為替証拠金取引)をする際に受け取ったり、支払ったりする金利の差額である。FXの取引は通常数倍のレバレッジをかけて取引をする。これはお金を借りて取引をしているのと同じことなのである。例えば円売り豪ドル買いのポジションを持つと日本円の借入金利と豪ドルの預金金利が発生することになる。
日本の金利は0.1%なのに対し豪ドルの金利は1.5%なので差し引き1.4%分の金利(スワップポイント)がもらえるという仕組みである。トルコリラの金利は非常に高いのでトルコリラを買って保有しておくだけで多くの金利収入が得られることになる。ところがその状態でトルコリラの為替レートが下がると損失が発生する。この為替の損失の方がスワップポイントの利益よりも大きければ収支はマイナスになるのである。すべて自己資金で取引をしていれば含み損を抱えても自分が耐え忍んで再びトルコリラが上昇するのを待つこともできる。ところがFXの取引は通常証拠金にレバレッジをかけて取引するので数%〜数10%の下落でも強制決済(ロスカット)されてしまうことがある。
年初にトルコリラを買って(トルコリラロングポジション)スワップポイントを貯めていたとしても50%もの下落に見舞われれば持ちこたえられない人が続出する。一気に証拠金を失い、ロスカットされ取引を続けられなくなるのである。もちろんこの時期にトルコリラを売って為替差益を得るということも可能だ。しかしこうしたトルコリラショートポジションでは逆に多額のスワップポイントを徴収される。これで仮にトルコリラが上昇すれば金利と為替差損をダブルで被るのでトルコリラ下落によほどの確信を持っていなければなかなか取りづらいポジションである。